22 魔の乱用
ラシードは、ネフェラに言われるままに精製された、一リットルもある魔を渡され、身体の中に取り入れた。
これには理由がある。
身体強化までは出来たが、ラシードの成長は芳しくなかったからだ。
「魔が足りないせいだわ。これを飲めば、あなたはもっと強くなって、王の魔の軍隊にも勝てるようになる」
ネフェラの提案に乗ったのには、教授のネフェラに逆らえないと言うだけではなかった。
ラシードには人には言えない痼りがあった。
王に対して、逆らえなかった過去の自分に対するものだった。
『あの時もっと力が有れば、今の自分は違っていたのではないだろうか』
ラシードには懇意にしていた部族があり、そこの部族長の姫と恋仲でもあった。
十五年も前のことだが、その部族長が王に反意を示し、その部族が血祭りに上げられてしまった。
殺されたというのでは無い。それよりも残酷な目にあったのだ。
部族の三百人の男子と五百人の女と子供。すべてが魔に沈められてしまったのだ。
ラシードはその場にいてその光景を見ていた。
助けたくても身体が震えて何も出来なかった。
初めは老人たちだった。
黒い泥水に投げ入れられて、彼らは魔物になっていく。
それを周りにいた兵士が、淡々と屠って行った。
魔の泥水は、量がガクンと減り、その後透明な魔が少量残された。
兵達はここから素早く去り、ラシードも離れることとなった。
神官が火を投げ入れ、爆発音がしてその後しばらくすると、壺に精製された魔を持ち帰った。
百人以上泥に入れられて、一人も生き残りはいない。神官が気にしたふうもなく告げる。
「二回目には、増しな兵士が出来上がる。数ヶ月後にはな」
要するに、残された部族の命は、数ヶ月だと言うことだろう。
悲劇はそれだけではなかった。
懇意にしていた部族が三度にわたって泥に沈められた結果、魔の兵士達が作り上げられた。
その中には、過去、思い合った部族長の姫もいた。
全部で五十人ほどの兵たちは、ラシードを見ても何も覚えておらず、ただ言われるがまま、隊列を組んで、特別兵舎へ歩き去ったのだった。
帝国兵は、確かに志願兵だ。だがそれは一般の兵のことだ。
特別に作られた魔兵士は、敵対部族の血で賄われている。
この事実を知るものは少ない。
混同して伝わったのか、それとも帝国が態と流している誤謬だろう。
ラシードが王に見せられたのは釘を刺したためだと思われる。
ラシードの部族は王の部族のつぎに多いのだから。
権力の掌握には、効果的な方法だと感じる。
あの光景を見せられて逆らうなど出来はしないではないか。
今、ラシードは岐路に立たされている。
元王族のネフェラによる実験は、果たして本当にラシードのためのものなのだろうか。
王の差し金ではないのか?
思考が千々に彷徨い乱れるが、あの光景が未だに脳裏に焼き付いている。
「敵が、打てるのか。それとも破滅への一歩か……」
彼の力は強大になりつつある。
魔が体中を駆け巡り、何でも出来そうな気持ちが高揚するような熱が頭の奥から湧き上がってくる。
――これに食い殺されてしまう!
そう思った瞬間、彼は気を失った。




