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18 神獣という魔物

マタギの叔父さんたちは、持ってきたお酒を沼に流している。


ここまで来る道中には、魔物が二十頭くらい出てきた。

多分魔物だと思う。

だって、中型犬ほどもあるモグラやネズミがいたんだもの。

モグラは土から突然出てきて、叔父さんの足に噛みつこうとした。

けれど、叔父さんの靴には鉄板が仕込んでいて、踏みつけられた。

戦意を失ったところを、叔父さんの鉈が振り下ろされて仕留められていた。


私はマタギの叔父さんを尊敬の眼差しで見ることなった。

叔父さんたちの袋には得物がたくさん入れられている。

素早く裁き、必要な部分だけ持ってきていた。

帝国での経験を思い出し、エイリックの顔がふっと浮かんで消えた。

沼の周りの地面は泥濘んでいて気持ちが悪い。かと言って泥ではなく、枯れ草が何層にも積み重なっているので靴が泥まみれになると言う事は無かった。


「ここは、湿地帯だ。気ぃつけねば落ぢでまるはんでな」

「はい」


私も言葉が何となく分かるようになってきた。半分くらいは。

沼の表面は光が当たると虹色に光る。薄らと油が表面を覆っているみたいだ。


「こないだきたときだば、くろかっただばって、なしたんだっきゃ」

「???」

「以前来た時は黒かったそうだ。今は様子が違っているらしい」


パパの通訳でやっと理解した。

だったら今がチャンスなのでは? きっと動物がここの魔を精製したばかりなのだ、きっと。


「ポンタ、あなたなら、あの表面に浮いている魔を持ってこられる?」

《うん、やってみる。でも、ここ、なんか変だ。強い気配があるんだ……》


ポンタは闇に隠れて沼の端に転移し、魔を空間庫に入れ始めた。


ポンタがこっちへ戻った瞬間、シュワッと光が横切った。

いままでいた場所から、ポンタは煙のようにかき消えていた。

ポタ、ポタ、と水の落ちる音がして、私の背中にゾワリと悪寒が走る。

ゆっくりと、水滴の落ちてきた方へ顔を上げると……


「ポンタあ゛ーっ!」


ポンタは七メートル上空にぶら下がっていた。

巨大な白いものにポンタが捕まってしまったのだ。

私がポンタを助けようと一歩踏み出すと足がめり込み、ズブズブと身体が沈んでいく。

パパと叔父さんたちは、必死になって私を引っ張り上げている。


「あいだっきゃ、やまがみさまでねが!」

「おろーっ、んだ、やまがみさまだ!」


叔父さんたちが口々に叫ぶ。彼らの指さす方を私も見た。

薄らと姿を現したのは、大きな白い蛇だ。水面から七メートルほど上に頭が持ち上がって、あとは水の中だ。全体の大きさは想像できない。

目は赤く、切れ長で、じっと私を見ている。


ポンタは死んだふりだろう――多分。


鼻につくような腐った臭いが、辺りに充満し始めた。

すると巨大な白蛇が自分の牙にぶら下がったポンタを、「ペッ」と吐き出した。

苦しそうなキュイーンという音を発しながら、スッと水の中に消えてしまった。

だけどホッとしている場合ではない。気絶したままのポンタが沼に沈みかけている。


「ああーっ、大変!」 


でも大丈夫――私なら出来る。頑張れ、私。

私は転移でポンタの場所へ飛んだ。転移先は水の中だ。体中に水がしみ込み心臓がビックリしてぎゅっと縮む。

目鞍めっぽうに手を伸ばした指先にポンタの尻尾が触れた! 

その後、素早く元の場所に転移する。


「げほ、げほっ……」

「サクラ! なんて危険な真似をするんだ!」


びしょ濡れになった私を頭ごなしに叱るパパ。

私はそれには構っていられない。ポンタのことが心配だ。

ポンタはちょっと怪我をしていた。

治癒を使うとピカッと光り、ポンタは気が付いたようだ。


《サクラ、ボク、また気を失ったみたい》

「うん、ポンタの臭い臭いで蛇も逃げちゃったよ」


ポンタはちょっと傷ついた顔をする。臭いと言われたからかも……。

マタギの叔父さんたちは、私たちから遠ざかって、不気味なものを見るように固まっていた。

一人のマタギがこちらに来て、


「おめだぢ、なにもんだ? やまがみさまの眷族だが?」

「パパ……?」

「いや、この子は帝国で力を得てきた。これは魔の力というものだ」


「ふーん。きいだことあるな。んだば、わのかがさもやってけねが。かがぁいま、病気でねでるはんで」

「分かった。だが、この事は内密にしてくれ。金は要らん」


パパにあとで聞くと、マタギの奧さんが病気なので助けて上げたいのだという。もちろん引き受けた。


***


「めわぐだの。こたらだどごさ、わじゃわじゃきてもらて」


寝たきりの病気の奧さんは、恐縮していた。

なんの病気か分からなかったが、取り敢えず治癒を掛ける。

いつものようにピカッと光ったけど、あまり変わりはないようだった。


それからは、何度も治癒を繰り返す。めったに使う機会がなかった治癒だ。この際だ、気を失うまで使う。

気付けば私は寝かされていて、奧さんは起き上がれるようになっていた。

マタギの叔父さんはすごく喜んで、毛皮やら肉やらをパパに持たせようとする。

それを、何度も断るパパ。


「いいんです。どうか、絶対に誰にも言わないでください」

「わがってるってば。いわねじゃ。誰さも」


ポンタはずっと影に隠れっぱなしだ。どうしたんだろう。余程ショックだったのか。

あんなに大きなミズチ。

ここの人達からは、山神様と言われていたけど、本当に神のような威圧感があった。

私達は目的を果し、帰路につく。

ポンタの空間庫には、たくさんの反物や毛皮などが入っている。

あの沼には、熊や、犬、狐など多くの神がいるという。

滅多にお目にかかれないものなのだそうだ。


――あれは、ポンタみたいな、良い魔物なのかしら。


もしかして、ポンタを私から取り返そうとしてたのかもしれない。

怖かったけど、ポンタはかすり傷だったし、ミズチはあれ以降、姿を見せなかった。


ポンタはショックのせいか、影から出てこなくなってしまった。

ポンタの転移が使えない。

そのため、帰りは時間が掛かった。

三十日掛けて、やっと私の街に戻れたのだ。

私の転移を使わなかったのは、威力が小さいという理由もあったけど、一番はパパが使うなと言ったからだ。


「気を失っては返って時間がかかる」


そう言っていたけど、本当は私の身体に害がないか不安だったからだろう。

マタギの奧さんにかけた治癒の効果はよく分からなかったけど、私の回復速度は明らかに速まった。

やはり、使えば使うほど成長するんだと感じる。

家に着いて、口数の少なくなったポンタから荷物を受取ったパパが、


「ポンタには助けられた。こんなに仕入れが捗ったことはなかったぞ」

荷物の整理をし終わったパパが、小さな物を手に私の部屋に入ってきた。


「これはポンタのものじゃないか? 荷物に紛れていたぞ」


渡された物は、丸い五センチくらいの赤い色の塊――なんだろう。

ポンタは、魔を少ししか取って来れなかったと落ち込んでいたようだ。

元気がなかったのはそのせいだった。


「私はいらない、ポンタが飲んで」

《ボクが飲んでしまっても良いの?》

「ポンタがとってきたものだもの。飲んじゃって。ところでこの石どうしたの?」

《あの池に落ちていたんだ。拾ったら蛇に掴まった……》


私は石をどうしようか迷った。

あの池は精製された魔が浮いている場所だった。

これは、魔に関するものではないだろうか。

ヤマタイラ国にも魔が湧き出す場所はあったのだ。

あの場所にいた魔物たちは、この国特有のものなのだろう。


「池の底から魔が湧き出しているんだわ」


魔は水より軽いのだろう。ユーフラティア帝国のようにたくさん湧き出していないけど、ほんの少しでも手に入れることが出来るのなら、ヤマタイラ国は助かるのではないだろうか。

パパに相談すると、


「止めておきなさい。あそこには山神が住んでいるんだ。そっとしておいた方が身のためだ」


そう言われた。

机の上に赤い石を置いて、毎日眺めている。

小さな座布団をママに作ってもらって、その上に乗せてみた。

お日様の光が当ると、キラリっと光って綺麗だった。

ある朝、石が割れて、雛が生れた。赤い色のしなびた雛だ。

ポンタが近づくと、ピーピー鳴いて何かをねだる。


お腹が空いているようだ。

粟と稗を水でこねたものを与えると、ペロリと食べた。

雛は一ヶ月もすると五十センチほどに成長した。

そして、こう言った。


《わ、朱雀。火の鳥だじゃ》







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