表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/34

17 サクラの日常

「お誕生日だね。サクラもこれで十五歳になった」


そうだ、もう私は大人。これからは仕事を探していく。

パパは商人になれというけど、今は色んな仕事を見て、それから決めたい。

神社の神主様のように、世界中を旅してみるのも憧れる。


明日は神社へ行って神様に感謝を捧げ、その後神主様に会いに行こう。

神主様も、過去、帝国へ行って魔を身に馴染ませた。

神主様のスキルは「言語理解」で、結構他国に多いスキルだけど、有用なものだ。

私が密かに考えている事を神主様に試してもらいたい。

以前転移が始めて見た力だと勘違いしていたけど、実は神主様が始めて見たキル持ちだと思い出したのだ。


この国のスキル持ちは首都に集中している。

首都以外はほとんどいなかったが、神主様はこの街にいたことになる。

治癒を使えば、仕事は出来るけど、それは危険だろう。

だって、国家に囲われてしまう。そうなれば自由にあちこち行けなくなってしまう。それは絶対に嫌だった。

パパもこう言っている。


「サクラが、見て感じたことが本当の事なら、帝国も酷いが、ヤマタイラ国だって同じではないか。私には何も説明などなかったのだからな。もし知っていたらパパはお前を行かせなかったぞ」


そうだろうね。お金をせびって、割り当てを埋めたんだから。

各国に割り当てられた人員が減れば、つぎの年からは、受入れ人員を減らされてしまうというのだ。

危険を知っていて、我が子を差し出すお偉いさんは少ないだろうから。

この頃ポンタの様子が変だ。

土を掘ったり、空気の匂いをかんだりしている。

きらいな魚まで食べて、首をかしげていたりする。


「ポンタ、今度はなにをしているの?」

《今は、この世界の魔力を測定しているんだ》


魔力? 魔の力ってこと?


「ポンタ。魔の力なんて測定できるの?」

《出来ない……おかしいんだ。普通は、空気中に魔素とかマナとかあるはずなんだ。それを取り込んで力が使えるはずなんだけど。この世界は法則が違うみたいだ》


法則、はあるだろうけどポンタに分かるの?


「ポンタってヘンテコな魔物だね」

《ボクは魔物ではないっていってるでしょ! ボクはボク。何度言ったら分かってもらえる……よし、分かったサクラには真実を教えてやる》


ポンタがいう真実は、奇っ怪なものだった。

なんでも、異世界からの転生者だというのだ。

ポンタがいた世界では、”日本”という国があって、ヤマタイラ国に似ているけど、もっと文明が進んでいたという。


ポンタは、子供のうちに死んで、気が付いたら石の中に入り込んでいた。

そのまま何万年もそこにいたんだそうだ。

まったく信じられない話だった。


ポンタと外出するときは、ポンタは私の肩に乗る。でも誰にも気付かれない。

ポンタは影に隠れることが出来ると言うけど、肩にはちょっとしか影がないのに、どうやっているのか分からなかった。

周りに誰もいないときは、首だけ影から出て耳元でささやく。

ポンタの髭が当って、ちょっとくすぐったい。

神社でお参りをして、社務所へ行く。

神主さんが和やかに迎えてくれた。


「サクラさん。無事帰ってきてくれて安心しました」

「……神主様は、危険だって知っていたのですか?」

「……口止めされていたからね。申し訳ない。でも、サクラさんなら大丈夫だと確信していたよ。魔に取り込まれるのは意志が弱い人だけだそうだ」


「そうなんだ。でも、その事はパパには言わない方がいいかも。すごく怒っていたから」

「そうか、分かった。黙っていようね。どちらにしても言ってはいけないことだから」


私は、神主様の魔の力を授かったときの話を聞いた。

神主様が帝国へ行った当初は、言語理解が出来る能力持ちは、ヤマタイラ国にはいなかったそうだ。

誰とも言葉が通じず苦しんだ。

やはり、必要とするスキルが身に付くのだと私は確信する。


「神主様には、他には何も力がないの?」

「魔は一人に一つしか力を与えないと聞く。私の力はこれだけだよ」


そうなんだ。では私の仮説は間違いなのかしら。

今私は二つ使える。治癒と転移。


就寝前には何度も転移を使い部屋の中を移動しまくって力尽きるまで転移する。

そうして眠る。

たまにお布団にたどり着けず畳に寝てしまうので、夜中にママがお布団に移動してくれている。

ママは心配そうにしているけど、私のやりたい事を理解してさせたいようにさせてくれるのだ。

転移の距離は少し伸びた。でも、なぜかそれ以上は成長が止まってしまったようだ。

治癒もだ。治癒は使いたくても使う機会がない。

怪我人を見つけてこっそり使う程度だった。


「ポンタ、なぜ私の転移は成長しないんだろう」

《っ! 分かったぞ。そうだったのか。この世界は内包型だったんだ》


またポンタがおかしくなってしまった。

ポンタは、理解できないでいる私に蕩々と説明し始めた。


《いいかい、サクラ。魔力は持っている分しか使えない。外からは取り込めないんだ。多分、一つのスキルを使うだけなら成長出来るけど、君の場合、二つスキルが身に付いた。魔力が分散してしまったお陰で成長が止まった》


「ええーつ! 私のせいなの?」

《そうとも言い切れない。君はみんなと何かが違っているはずだ。例えば違う魔を同時に身体に入れたとか……》


そう言えば、精製された魔を飲んだとき、味や臭いが少しあった。あれだろうか。


「でも、それならみんなと同じ量を飲んだのに力が成長出来ない理由になるの?」

《決まっている、君の場合、倍の量を飲まなくっちゃダメだったんだ》


ガックリだ。私はこのまま成長出来ないってことだ。


「でも、ポンタは? ポンタは魔物だから人間とは違うの?」

《ボクはいっぱいスキルが有る……でも、やっぱりそのせいかな、これ以上の成長が出来ないみたい。器用貧乏になった。でも、石油を飲んだら変わるかも!》


「石油って?」

《いや、ボクの世界にあったものに似ていたからつい……ここの世界の魔のことさ。今のボクって攻撃魔法がないんだ。魔を飲みたい。そうすればボクにも成長の余地はあるはずだ》


ポンタはヤマタイラ国にも魔があるという。

どこかガスが吹く場所があって、その地下に魔が眠っているというのだ。


《すごく少ないけど、日本の石油は綺麗だったはずだ》


雲を掴むような話だ。

いくら小さな国だといっても、国土中を探し回るのには無理がある。それこそ国家が総出で取り組む案件ではなかろうか。

暫くはこのままで満足するしかなさそうだ。

ところがひょんな所から情報を得ることとなった。


臭水(くそうず)のことか?」


パパが知っていた。パパはあちこちに行って商品を仕入れてくる。

陸奥には沼があって、そこからは臭い臭いがして気味の悪い生き物がいるという。

そこには誰も住んでおらず、未開の土地なんだそうだ。


「だが、そこへは行くことは出来ないぞ。馬で行ったとしてもすごく時間が掛かるし、第一危険だ」


魔物だ! 魔物がいるんだ、ヤマタイラ国に。

誰もいない土地だから知られていないだけで、魔が自然に染み出ているならば、動物によって精製されているかもしれない。


「パパ連れて行って。転移で少しずつ行けば絶対早く着けるはず」


――ポンタと交互に使えばいい!


「では、サクラは商人になると誓いなさい。そうすれば一緒に連れて行ってやる。陸奥には珍しい反物がある。木の皮で作る高級品だ。それを仕入れに行く」

「いいわ。誓う。でも私は世界を相手取る大商人になる!」

「ぐっ!」


***


パパは、ママにすごく叱られている。

二階の私の部屋にまで声が響いてきた。


「あなた! 一度だけでは飽き足らず、二度もサクラを危険に晒すつもり?」

「いや、サクラが行きたいっていうから……つい」


「ついって、なんですか。サクラは私達の大事な一粒種ですよ。万が一の事があったらどうするんです?」


「大丈夫だ。私が付いているんだ。それにサクラには転移がある。盗賊が来たってすぐ逃げ切れる。心配するな」


***


パパと私とポンタはヤマタイラ国の北、陸奥へやってきている。

ここまでは、転移と歩きを繰り返して、十日くらいで着いた。

パパは「早馬より早いぞ」と言って喜んでいた。

パパには、ポンタのことを明かした。


「空間庫だと! 伝説の……あれか」


そう。商人にとっては垂涎のスキルだろう。

だから荷物は全部ポンタに持たせて、私たちは身軽だった。

陸奥という領地にはほとんど人がいない。村同士の距離も離れていて、閑散とした世界だった。

宿場街も、せいぜい十軒ほどが集まった村で、人も四十人いるかいないかという所ばかりだ。


「ここからは宿はないぞ。パパの知り合いの家に泊めてもらう。サクラ、きちんと挨拶するんだぞ」

「はーい」


私はもう十五歳なのよ。いつまでも子ども扱いはやめてほしい。

パパの知り合いというのは、マタギという仕事をしている人だった。

マタギは、山へ入り、動物を捕ったり山菜を採ってきたりする人だと言う。

ここにある、根曲がり竹という細いタケノコの炊き込みご飯を食べさせてもらった。

ほんのり甘く、独特の香りがあり、そしてコリコリとした歯触りがあって美味しかった。


「今の時期でねば、食えねぇもんだじゃ。おめぇらいい時期に来たな」


言葉もそうだが、おかしな抑揚があって、聞き取りづらいなまりがあった。


「臭水がある沼に行きたいのだが、案内してもらえないか」

「どんだばっ! なして、そったらだどごさいぐだば。はんかくせぇな、おめら」


「……うっ。とにかくお願いしたい。娘が行きたがっているのでね」

「パパ、叔父さんの言葉分かるの?」

「まあな……半分くらいは……」


とにかく翌日の朝早く出発することが決まった。

マタギの叔父さんは鉄砲を二丁肩に提げ、腰には重そうな鉈をさしている。毛皮のチョッキを着て足にはゲートルを巻いていた。

パパがお願いしたのか、マタギが他に三人同行してきた。

叔父さんたちはよく分からない言葉をまくし立てていたが、パパによると


「危険だから」


だそうだ。

あんなにいっぱい話していた言葉が、それっぽっちだとは思えないけど、確かに危険だろう。


魔物がいるのならば。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ