閉塞と勇者
「まったく、エミリアめ……一体どこに……」
腕を組みながら屋敷の廊下を歩く王女。その後ろ姿は心なしか腹を立てているように見える。しばらく歩いた王女は屋敷の玄関にたどり着き扉の取っ手をつかんで勢いよく開け放った。
はずだった。
「……悪趣味だな」
王女の開けた扉の先には開く前と寸分違わぬ状態で扉が存在していた。王女の開けたはずの扉はいつの間にか消えている。まるでその行為がなかったかのように扉には変化がなかったのだ。
王女は顎に手を添えると手に魔力を集め始める。
ガツンッ
辺りに耳障りな破壊音が響く。王女のふるった巨大ハンマーによって扉は壊したはずなのだが、その奥からまるで彼女をおちょくるかのように扉が顔を見せた。
「ふん、……やってくれるな」
王女は再び現れた扉に手を当てる。普通のドアだ。木でできた時代を感じさせる玄関口に特に変わった点は見られない。王女は面白いと言わんばかりに笑みを浮かべた。
先程より大きな破壊音。彼女が鉄球を壁に叩きつけた音である。もちろんその結果は先程と同じ。扉を見つめながら王女は手に持った鎖付きの鉄球を放り投げると、彼女の膝辺りまでの身長の影人間を作りだした。
「やれ」
王女の短い命令に、影人間は頷くと間髪いれずに扉に蹴りを入れた。しかし、扉を破壊してもその先にはまた扉がある。どのような細工がかけられているのか知らないが、面倒なことにその原因を解決しなければ永遠にこのドアを開けて屋敷の外に出ることはできないのだ。
しかし王女は動こうとしない。あくまで扉を開けるつもりでいる。影人間は小さく肩を下げると、勢いよく手を合わせる。影人間が合わせた手は一見一つの腕に見えるくらいにぴったりと合わさっていて境界線が分からない。そもそも境界線なんて無いのかもしれない。そのまま影人間は合わせた手を扉につきたてるとそのままその腕を素早く回転させながらドアを壊していく。言わばドリルである。……影人間の腕が―――どのような原理かは知らないが―――ドリルのように回転しながら扉を蹴散らしていく様子は実に珍妙なものであった。
扉を壊した先には扉が現れる。しかし、それには少し、本当に些細な―――瞬きでもするくらいの―――時間がかかるらしい、しばらく影人間が扉を壊していくと扉が徐々に影人間の猛攻に追いつけなくなってくる。
…………いくつめの扉だったろうか、ちらりと外の景色が映ったように見えた。影人間はさらに腕の回転を速くする。
刹那
……影人間は何者かによって踏みつぶされた。
***
俺の放った魔法は偽の王女に直撃、王女の容姿を真似た何物かは驚愕して目を見開いている。
「なぜだぁ……私の擬態は完璧だったはずなのに……」
「はっ!! こちとら伊達に王女に扱き使われてないんでね……お前と王女見分けるなんて訳ねーんだよ」
「ンググッ……キサマァ!!」
王女の顔をした何者かは、その端麗な顔を歪ませる。王女の顔だからなんか迫力あるな……。
「死ね!!」
王女の顔をした何者かは単調な動きで、怒りに身を任せたまま俺に向かって来た。もちろんそんな攻撃が俺に当たるわけもなく、軽くいなしてやるとそれは、無様に倒れ込んだ。
見た目的になんか気分が乗らないけどそろそろとどめでも刺すか……。
「いやはや……やはり勇者は違いますねえ……」
「フギャア!!」
止めを刺そうとした俺と偽王女(仮)の間に誰かが割り込んでくる。偽王女を踏みつけるようにしてその場に現れた、そいつの正体は……確か……えーっと……だれだっけ?
「ゲルシュ・スワンですよ!!」
「あれ?そんな名前だっけ?何かもっとデロッとした感じの名前だった気がしたんだけど……コーン・ポタージュ的な……」
「誰がコーンポタージュだ!!誰が……」
その場で地団太を踏むゲルシュにそれまでおとなしく踏まれていた偽王女が怒りの声をあげる。
「ドケエエェ!!」
「おや、これは失礼……それにしてもどうして気がつかれたのですか?特におかしいところは感じられなかったように思われましたが」
ごめんねと言いながら偽王女の上から下りたゲルシュは俺に疑問を投げかける。
「はあ? おかしいところだらけだったじゃねえか……だいたい王女は扉が開かないからって諦めて俺の様子見に来るやつじゃないぞ?」
「ひどい言われようですね、黒の王女も……ま、これでひとまず話は終わりにして……殺しあいでもいかがですか?」
その言葉にすかさずゲルシュと距離をとる。
「はっ、二対一で勝負する気か? 魔物らしい汚い手だな」
「ハハハッ……二対一?何を言っているんですか?」
「……なっ!!」
後頭部に強烈な痛みが走り、直後目の前が暗転した。
影人間(大)へ捧ぐ…………なんか、こればっかり




