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黒姫の奴隷勇者  作者: 分福茶釜
金の王女の襲来
17/21

友と勇者

「……いいや。うん、俺は何も聞かなかった」


「勇者と呼ばれた男の割に意気地がないのですね」


 エミリアは俺の言葉に呆れた顔を見せる。


「まあ、簡単に説明しますとお嬢様は、兄弟の方々と魔王族王位継承争いを行っているのでございます。詳しく聞きたくないのですか?」


「いいって言ってんだろうが!! しつこいぞ、真の契約だか何だか知らんが俺は結ばないからな。ぜえええったいしないからな!!」


 きっぱりと言い放つ俺に小さくエミリアは舌打ちした。この女……

 とりあえずエミリアを無視して俺は屋敷に戻る。エミリアと一緒にいると強制的に真の契約とやらを結ばされてしまいそうだ。王女はどうか知らないが、エミリアは結ばせる気満々の様だな。しばらくエミリアとは距離を置こう。



……………………



 俺が屋敷に入ると、丁度王女が玄関先でたたずんでいた。王女は俺の姿を確認すると丁度いいとばかりに俺に口を開いた。


「……なに?」


「今から倉庫にある器具を運び出す」


「あっそ、んじゃ」


 王女の言葉に適当に相槌を打って自分の部屋に戻ろうとする俺の後ろ首を王女が勢いよく引っ張り戻す。


「痛っ!!なにすんだ!!」


「なに、ではない。手伝えと言っているのが聞こえなかったのか?」


「うん、少なくても俺は王女の口から直々に手伝えとは聞いてないな」


「そうか、では手伝え」


「だが断る!!」


 一回これ言ってみたかったんだよね。


「ん、何をしている。倉庫はこっちだぞ」


 え? ……いや、さっき断るって……


「愚図愚図するな、早くしろ」


 ここの屋敷の住人は……エミリアといい、王女といい…………人の話を聞かなくて困る。俺は大きくため息を吐いた。




***




 屋敷の地下。そこにある部屋の一つ、倉庫に俺と王女は居た。気味の悪い道具や今にも血のにおいが漂ってきそうな武器の数々が乱雑に積み重ねられている。その品の数々の内ひと際大きなものの前に王女と俺は立つ。


「……何これ?」


「ギロチンだ。しばらく放って置いたからな……やはり痛みが激しい」


 ギロチンの柱を軽くなでながら王女は呟く。しかし何でまたギロチン?


「これ……運び出すつもりじゃないだろうな……」


「……」


 こちらを見る王女の顔。俺の予想が正しければ「何を当然の事をいっておる?」って顔だ。こんな埃まみれででかい物を……俺一人で―――恐らく王女は手伝うなどという気はさらさらないだろう―――運べるわけない。


「せめてエミリアにも手伝わせて……」


 ガシャアアン!!

 窓ガラスの割れる音だろうか。何かが砕ける音が地下の倉庫にまで届いた。


「なんだぁ?……」


「今日は来客が多いようだな……」


 王女の言葉にぎょっと目を見開く。この言い方と雰囲気、察するに王女を狙う魔物か何かが来たのだろう。それだけならいつものことだから特に驚きはしないんだが、今日はすでに一匹魔物を倒している。少なくても俺がこの屋敷に来てから魔物が一日に何匹も来るなんて事は初めてだ。


「そんなことよりも、まずはこれをどう運び出すかだ……さすがに貴様一人では骨が折れるであろう?」


「見に行く気ゼロなのか?」


 何事も無かったかのように話を進める王女。まあ、上にはエミリアがいるんだからいちいち王女、ましてや俺なんかが表に出ていく必要は無いんだろうが……

 自問自答している俺を放って、王女は片手に乗る程度の小さな影人間を一匹作り出す。久しぶりに見たがやっぱりこれ気味わるいな。影人間はとことこと、やってくるとひょいとギロチンを持ちあげた。…………


「……俺、居る意味ないだろ」


「ふむ、久方ぶりでどうも調子が出ぬな……待っていろ」


 王女が小さく手をあげると、ギロチンを持っていた影人間は霧のように辺りに拡散して消える。そうした後王女はもう一度、今度は親指サイズの影人間を作りだした。


「これで丁度良いであろう」


「わざわざ小さくしなくても…………」


 小さな影人間は一人ではギロチンが持ちあげられないようで、俺の方に小さな手で手招きをしてきた。


「ちなみにどこまで運べばいいんだっけ?」


「大広間までだ……」


 王女は、腕を組んで壁に寄りかかりながら、ギロチンを何とか持ち上げようと足掻いている小さな影人間を何の感情も宿さない瞳で見下ろしている。


 大広間って……遠いな。


「ったく仕方ないな……」


 とりあえずこのままでは埒が明かない。俺は影人間を手伝うようにして、ギロチンを持ちあげた。




***




「くっそ……重いな」


 俺と小さな影人間は四苦八苦しながら巨大なギロチンを運ぶ。


「遅いぞ」


 涼しい顔で王女は先を歩く。もちろん大広間につくまで休憩など許されない。手の感覚が無くなってきているが、そこは踏ん張るしかない。王女のことだから仮に不注意でギロチンを落としたりすれば何をされるか分かった物じゃない。

 ふと視線を足元に向けると、俺と一緒にギロチンを持つ小さな影人間がふらふらしながら必死でギロチンを持ちあげる姿が目に入った。その姿を見た俺は自然とその影人間に口を開いていた。


「……大丈夫か?」


 俺の言葉に小さな影人間はこくりと頷いた。しかし、今にも潰れてしまいそうな影人間を見て何だかかわいそうになってきてしまった。俺は王女へと口を開く。


「なぁ、少しでいいから……」


 王女に休息をもらおうとした俺に、影人間は首を振る。自分は大丈夫だから自分に気を使わなくてもいいと言っているように見える影人間……何と健気な……少し眼頭が熱くなってきた。それに比べて……王女はひどい奴だな……鬼め。


「? 聞き間違いだったか……」


 突然王女が呟いたのにびっくりして体のバランスを崩してしまう。もう少しでギロチンを倒してしまう所だったが、影人間がおさえてくれたので何とか免れた。小さく謝罪すると、小さく首を振る影人間。……いい奴だ

 それにしても王女の聞き間違いとは……なんだ?顔をあげて辺りを見渡すが特に何もない。いつも通りだ……ん?いつも通り、確かさっき窓ガラスが割れた音が……


「エミリアがもう倒しちまったのか?」


「……ふむ、お前達これを大広間まで運んでおくのだぞ」


 俺と影人間にそう告げると俺達から離れていく。屋敷に異常が無いか見て回るのだろうか……一人で大丈夫なのか?


「しょうがないな……早めに終わらせるとするか」


 視線の先の影人間は力強く頷いた。



 …………………………



 広い屋敷の長い廊下をどのくらい歩いただろう。このギロチンのせいで唯でさえ長い屋敷の廊下が余計長く感じる。ちらりと、影人間を見るともはや半分押しつぶされながら必死になって歩いている。俺はそんな影人間に一つ提案を出した。


「なぁ、一旦休憩しないか?」


 俺の言葉に影人間は首を振る。なぜだ!?……お前だってあんな王女に扱き使われて嫌だろうに……今はその王女がいないんだぞ?

 困惑する俺に影人間は自分の小さな手を自分の左胸に当てる。その姿を見て俺の脳天に雷が落ちた。


「お、お前は……プライドにかけてこの仕事をやり遂げようって言うのか!?」


 どうしてそんなふうに思ったのか分からないが俺は影人間が確かにそう言ったように感じた。俺の言葉に少し間をおいて、影人間は力強く首を縦に振る。


 そうか……お前って奴は……


「なら俺も全力で協力する!!」


 俺と影人間は顔を見合わせ、共に笑った。…………気がした。


「よし!! なら行くぞ!!」


 俺の言葉に影人間はこくりと頷いた。俺は今日、何事にも変えられない友を得た。



 …………その後俺達は休むことなく歩き続けた。



 本気になれば物事何とかなるもので、とうとう俺達は広間の扉の前にやってきていた。

 ……長かった。時にバランスを崩して倒れそうになっても、手がしびれて休憩をとりたくなっても、俺と影人間はあきらめることなく、励まし合いながら一歩一歩、歩いてきた。


「……いよいよだな」


 影人間はいつものように俺の言葉に頷く。

 俺は扉に手をかけ開け放つ。誰もいない大広間に駆け込んだ俺と影人間はそれまで巨大なギロチンを支えるために使っていた手を解放する。重々しい音を立ててギロチンは床へと下ろされた。……とうとうやった。やりきったのだ。ひどい目にあっていたはずなのだが……なんだか今はすがすがしい気分だ。

 この影人間に出会わなければ俺はこんな気持ちになることは無かっただろう。物事をやり遂げるのがどんなに大切なことなのか、その小さな身を呈して俺に教えてくれた友を俺は振り返った。


 影人間はこちらをじっと見つめている。俺達はしばらく見つめあっていたがどちらともなく手を差し出し固い握手を……


 グシャ


「何をしておるのだ?」


 大広間にやってきた王女が俺に声をかける。だが俺はそのあまりにも非情な運命に声を出すこともできなかった。 俺の伸ばした手の先には王女の漆黒のブーツがある。


「そ……そんな、あんまりだ……」


「? ……なんだ?」


「かげええええええええええええええ!!」


 俺は今日大切な友を失った。






 影人間へ捧ぐ。

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