魔王城と勇者 後編
薄暗い魔王城内の廊下。そこを一人の女性が歩いていた。真っ黒いドレスを身にまとった魔王族の第二王女である。廊下のとところどころには気味の悪い装飾品やら何やらが飾られているが王女はそんなものには興味を見せず、冷たい雰囲気の廊下を無言のまま歩いていく。と、彼女の前にゆらりと炎が現れ男が現れた。
「これはこれは、お待ちしておりました。黒の王女様……魔王の間までご案内いたしましょう」
昆虫の様な複眼をもった男が彼女へ恭しく頭を下げた。そうした後に、その男は王女を案内するべく頭を上げ、踵を返す。そんな男に彼女は特に言葉をかけることもなく付いていく、廊下にはただただ彼女達の足音が響くばかり。
***
「魔王の間でございます。中で魔王様がお待ちでございますよ」
しばらく歩いていくと巨大な扉が現れる。その扉の前まで来ると男は廊下の脇によって腰を折って彼女に頭を下げた。言葉では言い表せないような威圧感が部屋の中からあふれ出ている。普通の人間なら腰を抜かしてしまう程のそれをまるで感じていないかのように王女は全く表情を変えることなくその巨大な扉を開けようとする。が、奇妙なことにその扉は静かに横にスライドすると王女を迎え入れるかのように開いた。
王女がそのまま部屋に入ろうとすると、慌てて脇に控える男が止める。
「靴はこちらで預からせていただきます」
「……そうか」
王女は男に言われたと売り自分の履いていた黒いブーツを脱ぐ。所詮黒のブーツを脱いだところで、王女は黒いソックスをはいているからか、さして黒ずくめの状態からの変化は見られない。
王女はブーツを男に渡すと今度こそ部屋の中に入った。
巨大な部屋、真新しい緑の畳敷きの床が広がる。そこにポツンと一人の男がいた。男は王女を見るとゆっくりとその場を立ち上がる。濃紫の長髪を持ち、長身で細身というよりなよなよとした感じの彼のいでたちはかなり奇妙なものだ。ゆったりとした漆黒の着物の上に妙に光沢感のある黒のマントを羽織っている。
魔獣の顔をかたどった巨大な面を頭にかぶっているため彼の眼元は陰になって隠されて表情が読めないが三日月のような形をした口だけははっきりと見え、彼の機嫌が良いのだろうと言うことを教えてくれている。
「……お久しぶりです、魔王陛下」
彼を見た王女はその場で小さく頭を下げた。
「……お帰り~、いちご大福あるけど食べる?」
魔王はそう言って手を一度叩く。辺りにパンッと音が響いたかと思うと部屋の脇の扉から使用人と思われる者達がいちご大福の乗った皿を素早く運んできた。彼らは無言のままいちご大福を魔王のそばに置くと小さく礼をして素早く部屋を後にする。
魔王は山のように積まれた大福を上から二つばかり取るとパクリと食べる。口をもぐもぐとさせながら魔王は未だに部屋の入り口で立っている王女をこちらへと手招きする。
「こっち来なよ、いちご大福嫌いだっけ? それなら、飴ちゃん、クッキー、チョコレート、何でもございですよ~」
もう魔王の取った二つの大福は魔王の口の中。魔王は開いた両手にもう一度二つの大福を握らせる。
「ちなみにくだものもあるよ?」
王女は静かに魔王へと近づいて口を開いた。
「……魔王陛下、本日は私に話があるのではなかったのですか?」
王女は静かに床に座ると自分の懐から手紙を出す。魔王が彼女にあてた手紙だ。
「んんーー、あ、そうそう……そう言えばさあ―――」
それまでのほのぼのとした空気が一瞬で張り詰める。魔王の口も一文字に結ばれて先程のようにへらへらとした感じは微塵も感じさせない。
「お前王位継承争いには参加しないっていったじゃん? あれ、なんか認められてないみたい」
魔王はそういうといっぺんに手にもつ大福を口に入れる。
王女は少し自分の求めていた内容とは違う事柄だったのか意外そうに眼を見開いたがすぐに不機嫌そうに眉を寄せる。
「……なぜでしょうか?」
「むぐ? んー、知らんけどみんな参加すると思ってるんだもん」
「ですが、私は有力な魔物の多く出席したパーティーで魔王陛下に正式にお伝えしたはずですが? 魔王陛下も了承なさいました」
「……あんとき、半分酔っ払ってて記憶ないんだよね。多分他の奴らも……あとさ、魔王陛下って止めない?ていうかやめろ。コレ命令」
「…………では何と?」
「そこはさぁ……娘なんだからお父さんとか、父ちゃんとかいろいろあるじゃん?」
魔王は大福を食べながら王女に話す。仕草や、声色からは、とてもじゃないが魔王に全く見えないどころか、目の前の自分の娘よりも子供っぽく見える。そんな彼が王女に自分を親父と呼べと言う光景は何とも奇妙なものだ。
「ではお父様、今ここで私が王位につくことは無いと認めてくださるのでしょうか?」
「ムリポン!!」
「……なぜでしょうか?」
「理由とか特にないけど……。まぁ王位継承争いに参加するかどうかは自由だけど、王位についてもらう可能性は十分ある。つまり兄弟げんかはしたくなければしなくていいけど、王座につかなくちゃいけなくなった時は大人しくついてもらうぜぇってこと」
パクリと魔王は大福を口に入れる。もう八つ目だ。
「…………つまり、私は兄弟との争いを避けられないと言うわけですか?」
「まぁ、みんな魔王になりたがるだろうから自分以外は皆殺しに来るんじゃない?だからそうなったら、まぁ避けられないね」
「…………」
「そーんな怖い顔するとべっぴんさんが台無しだぞ」
魔王の言葉により一層彼女は表情を険しくする。と、部屋の襖の外から声が聞こえてきた。どうやら魔王の部下らしいその声は、怒鳴っているわけではないのによく耳に通る声をしている。
「魔王様、西方の魔物の来客が見えております。何やら御機嫌が悪いご様子、行ってなだめて差し上げてください」
「待て、今日は娘が来るから来客は通すなと言っておいたはずだが?」
部下の言葉におもしろくなさそうに魔王は答える。口元がへの字に曲がっているのはそのせいだろう。
「しかし、随分と急ぎ伝えたい用事があるとかでして……」
魔王は小さくため息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。大福の粉が付いた手をパンパンと払い、王女に向き直って口元をニカリと歪ませると、少しかしこまった声で口を開いた。
「では、我が第二王女レイミールよ、健闘を祈る…………なんつって」
魔王はそう言うと、部屋を後にするため、扉の方へと向かう。
が、王女としてはまだ重要なことが話されておらず慌てて魔王を呼びとめる。
「なに?どったの?」
「……本日私を呼びつけたのはこの話をするためだけですか?」
魔王は王女の言葉に少しだけ考えるそぶりを見せると、こくりと頷く。
「そーだけど……なんかあったっけ?」
「いえ……てっきり勇者についてかと……」
王女は小さくつぶやいてから、ここは言うべきではなかっただろうかと考え直す。まぁ後悔先に立たずなわけで、王女が珍しく自分の犯したこの失敗をどう繕ったものかと考えあぐねていると何とも意外な一言が魔王から帰ってきた。
「勇者? なに?勇者来るの?この城に?」
「?……いえ、そう言うわけでは」
「はぁ~、最近めっきり勇者とか来ないよなぁ~」
魔王はぶつぶつと文句を言いながら襖を横にひいて出て行ってしまう。
「んじゃ、気ぃ付けて帰ってねぇ~」
パタリと襖は閉められた。
お読みいただきありがとうございます。
さりげなくヒロインの名前出しています……
名前って全然思いつかない……他の方はどうやって考えてるんでしょうね




