1-08 武器のメンテ、どこに頼むか問題
毒から回復した翌週、俺はようやく討伐系の依頼を受け始めた。
といっても、角兎やスライムといった、駆け出し向けの常設依頼だ。装備は中古屋で買った安物のショートソード一本。焦らず、確実に、一件ずつ。
で、わかったことがある。
俺の剣、減りが早すぎる。
「……そりゃそうか」
夕暮れの草原で、刃こぼれの浮いた剣を眺めて、俺は納得した。
俺の戦い方は、昔から変わらない。強い一撃を当てるのではなく、細かい攻撃を、とにかくたくさん当てる。角兎一匹にだって、隙を見つけるたびに小刻みに三回、四回と刃を入れる。素振り一万回で覚えた振りの速さは、伊達じゃない。
つまり、同じ一匹を倒すのに、俺の剣は普通の人の何倍も仕事をしている。刃も研ぎも、消耗して当然だ。
安剣を使い潰して買い替える手もある。でも、それは何か違う。道具は直しながら使いたい。この世界の職人が打った剣なのだ。
というわけで、武器のメンテを頼める鍛冶屋が必要になった。
まず行ったのは、職人通りの表にある大手の工房「鉄鎚亭」。立派な看板、飛び交う槌の音、店先に並ぶ艶やかな剣。いかにもという構えだったが、番頭さんに開口一番こう言われた。
「一見さんの研ぎ直しは、三週間待ちだね」
「三週間」
「うちはギルドの上位パーティー優先なんでな。悪いね、兄ちゃん」
三週間、剣なしで角兎と素手で語り合えということか。無理だ。
二軒目、三軒目も似たようなものだった。飛び込みの新人の、しかも安物のショートソード一本。相手にされないのは、まあ、道理ではある。
途方に暮れて職人通りの裏手に入り込んだとき、それを見つけた。
細い路地の奥。小さな工房。控えめな看板に『ノエル工房 修理・研ぎ・打ち直し』とある。窓から炉の灯りが揺れていて、中から、軽やかな槌の音がした。
トン、カン、トン、カン。
……いい音だな、と思った。理屈じゃなく、リズムが良かった。
扉を開けると、鈴が鳴って、槌の音が止んだ。
「いらっしゃいませ!」
奥から出てきたのは、俺より頭一つ小さい女の子だった。作業着に革のエプロン、額に押し上げたゴーグル。頬にすすがついている。
「ええと……親方さんは」
「私です! 鍛冶師のノエルです。修理ですか? 研ぎですか?」
私です、ときたか。失礼、と心の中で謝って、俺は剣を差し出した。
「研ぎ直しと、刃こぼれの修理をお願いしたくて。あと、できれば柄の緩みも」
「はい! 拝見しますね」
ノエルさんは剣を受け取ると、その場でするりと检めた。刃に光を滑らせ、峰を目の高さで覗き、柄を握って小さく振る。目つきが、さっきまでの人懐こさから一変して、職人のそれになった。
「……刃こぼれ、浅いのが六、深いのが一。研ぎは全体に甘くなってます。柄は目釘が緩いだけなので打ち直せば大丈夫。それより――お客さん、この剣、ずいぶん働かされてますね?」
「よくわかりますね」
「摩耗の出方が普通じゃないです。刃先ばっかり、まんべんなく減ってる。よっぽど手数の多い使い方をしないと、こうはならないというか……」
一目で見抜いた。この子、本物だ。
「明日の夕方には仕上げます。お代は研ぎと修理で銅貨四十枚。目釘はおまけしておきますね」
安い。大手の半額以下だ。
「あ、それと。明日まで得物がないと、お仕事、困りますよね?」
ノエルさんは奥に引っ込むと、飾り気のない一振りの剣を持ってきた。
「貸出用です。私が修行時代に打った練習剣なんですけど、ちゃんと斬れますから」
「いいんですか? 初見の客に」
「剣を預けてくれた人は、もうお客さんです!」
腕はいい、対応は丁寧、値段は良心的で、面倒見までいい。
――なのに、この店には、俺以外の客がいない。
帰り際、路地の入り口で、隣の金物屋の親父さんと目が合った。親父さんは俺と、ノエル工房の看板を見比べて、なんとも言えない顔をした。
「兄ちゃん、あそこに頼んだのかい」
「ええ。腕のいい人でした」
「ああ……腕は、いいんだよ。腕はな」
親父さんは何かを言いかけて、結局、口をつぐんで店に引っ込んでしまった。
……なんだ? この空気。




