2-10 理想の武器は、まだ遠い
第二章「聖職者編」、本日が最終話です。
「――はい、今回はここまで。……ハヤトさん。ちょっと、お話があります」
ノエル工房の定期メンテの日。研ぎ上がった俺のショートソードをカウンターに置いて、ノエルさんは職人の顔で言った。
「単刀直入に言います。この子、そろそろ限界です」
「……ですよね」
「刃の芯まで疲れてます。研ぎでごまかせるのは、あと二回か三回。ハヤトさんの手数に、そもそもの造りが追いついてないんです。中古の量産剣に、一戦闘百回は、あんまりです」
隣で聞いていたエルシーさんが「百回のほうを直してください」と小声で言った。直せません。あれはうちの主力戦術です。
「買い替え、ですか」
「はい。それで、その、うちで打ち直すこともできるんですけど……正直に言いますね。今のハヤトさんの戦い方に本当に合う剣って、そのへんの店には売ってないし、私が普通に打っても、たぶん、途中までしか応えられません。軽くて、速くて、何百回振っても芯が疲れない剣なんて、注文が無茶苦茶なんです」
無茶苦茶な注文。自覚はある。俺の理想の武器は、この世界の武器屋の棚には、並んでいない。
「……ハヤトさんの、理想の武器って、あるんですか?」
エルシーさんが、何気なく聞いた。
あるとも。二本。夢に見るくらいには。
「あります。まあ、遠い夢の話です。ダンジョンで魔剣を引き当てるより、難しいかもしれない」
「そ、そんなにですか」
「そんなにです。だから当面は、現実的な線で。ノエルさん、繋ぎの一振り、見繕いか打ちで、お願いできますか。予算はこれくらいで」
「はい! 任せてください。……むぅ、繋ぎって言われると、職人としてはちょっと悔しいですけど」
ノエルさんは唇を尖らせて、それから、何かを思い出した顔になった。
「あっ、そうだ。武器で思い出しました。お二人、来月の『開放』って知ってます?」
「開放?」
「『噛み合わぬ歯車の迷宮』ですよ。街の南東にある古いダンジョンで、普段は入り口が閉じてるんですけど、周期的に開くんです。次の開放が来月の頭で。――で、あそこ、武具の掘り出し物が出ることで有名なんです。うちにも毎回、迷宮産の武器の修理が持ち込まれます。中には、街の工房じゃ打てないような業物も」
「迷宮産の、武器……」
エルシーさんが、ちらりと俺を見た。目が輝いている。分かりやすい子である。
「ハヤトさん、それ……!」
「ええ。行く価値は、ありそうです」
繋ぎの剣で挑むのは業腹だが、装備は現地調達も含めて計画すればいい。それに、ダンジョンだ。ダンジョンといえば、討伐、探索、宝箱――そして、称号の巣である。アルオンの迷宮系称号のリストが、頭の中で音を立ててめくれていく。
「あの、ハヤトさん、今、すごい顔してました」
「気のせいです」
「称号のこと考えてる顔でした」
「よく分かりましたね」
「もう三週間も相棒ですから」
えっへんと胸を張るエルシーさんの隣で、ノエルさんが「じゃあ迷宮に行くなら、装備の点検、前日に絶対来てくださいね! 絶対ですよ!」と念を押してくる。
ありがたい話だ、本当に。
繋ぎの剣。頼れる鍛冶師。かけがえのない祝福。そして来月、掘り出し物の出る迷宮が開く。
――理想の武器は、まだ遠い。
遠いが、目指す方向に、道は続いている。焦らず、確実に、一件ずつ。次の目的地は、噛み合わぬ歯車の迷宮だ。
第二章「聖職者編」、これにて完結です。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
外れの祝福を引いた聖職者が、生まれて初めて「欲しい」と言われて、パーティー『ゼファー』の後衛になるまでの章でした。
明日20時より、第三章「鍛冶師編」が開幕します。
行きつけの鍛冶屋の、腕は確かな看板娘。彼女には実は――という章です。
なお、第三章からは1話あたりの文字数が、これまでの約1.5倍にボリュームアップします。
(更新ペースは変わらず、毎日20時です)
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