2-09 実績は嘘をつかない
結成から三週間。パーティー『ゼファー』の依頼達成記録は、二十一件、無事故、納期遅れゼロになった。
派手なことは何もしていない。討伐、採取、配達。駆け出しの受けられる依頼を、焦らず、確実に、一件ずつ。ただ、丁寧に。
変化は、静かに始まった。
最初は解体場のおじさんだった。「あんたらの獲物は処理が綺麗で値がつけやすい」と、買い取りに少し色をつけてくれるようになった。次は薬屋のばあちゃんで、エルシーさんの薬草の目利きを褒めて、彼女に半日の店番仕事をくれた。ノエルさんの工房には二人で通うようになって、エルシーさんはあの練習剣の逸話を聞いて「百回!?」と、俺の隣で改めて引いていた。
そして今日、初めての「指名依頼」が来た。
「東街道の商隊護衛、欠員一枠ぶんの補充だそうです。指名は――『ゼファーさん』にって」
ソフィさんが、我がことのように嬉しそうに依頼票を差し出した。聞けば、先日の配達依頼の商人さんが、俺たちの仕事ぶりをあちこちで話してくれたらしい。
護衛依頼は、初めてだ。断る理由はない。ただし、準備はいつも通りに。積み荷の内容、経路、休憩地点、過去の襲撃記録。前日に調べられることは全部調べて、当日は夜明けとともに集合場所へ行った。
結論から言うと、襲撃は、あった。
街道の中間、林が街道に迫る例の曲がり角で、ゴブリンの群れ、八匹。過去の襲撃記録と同じ地点、同じ手口。だから驚きはない。馬車の御者が悲鳴を上げるより先に、俺はもう走っていた。
「エルシーさん、合図どおりに!」
「はいっ! ――主よ、彼の者に迅きを!」
祝福が背中に灯る。世界の音が半歩遠くなり、俺の速さに、追い風が乗る。
八匹。多いが、群れというのは頭数ぶん強いわけじゃない。統率している一匹を最初の三秒で落とせば、残りはただの七匹だ。統率個体は、必ず群れの斜め後ろにいる。いた。もらった。
そこからは、いつもの作業だった。動作の予告を読み、隙間に手数を差し込み、武器を落とし、転ばせ、順番に無力化していく。逃げた三匹は追わない。護衛の仕事は殲滅ではなく、馬車を守ることだ。
戦闘時間、およそ九十秒。馬車、無傷。護衛対象、無傷。俺、無傷。
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称号「隊商の盾」を獲得
(条件:護衛依頼を被害ゼロで完遂する)
効果:素早さ +0.5%
素早さ:11.19 → 11.25
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そして、真価を発揮したのは戦闘後だった。
御者のおじさんが腰を抜かして動けなくなり、商人さんは動悸が止まらなくなった。そこからのエルシーさんが、見事だった。回復魔法で体を診て、白湯を沸かして飲ませ、落ち着いた声で「もう大丈夫ですよ」と繰り返す。ぐずぐずだった隊列が、彼女の周りで、みるみる立て直っていく。
二年間、中級パーティーの戦場を支えた回復役の仕事だった。平均、なものか。
「……いやあ、あんたら、すごいねえ」
街に着く頃、商人さんはすっかり上機嫌で、何度も言った。
「剣の兄さんもだけどね、わたしゃ聖職者のお嬢さんに感心したよ。あの落ち着き、大したもんだ。祝福がどうとか言うやつがいたら、わたしが笑ってやる。人を診られる聖職者が、外れなもんかね」
エルシーさんは、目を丸くして、それから、くしゃりと笑った。
翌日。報酬の受け取りでギルドに行くと、ソフィさんがにこにこしながら教えてくれた。
「商人さん、ギルドに感謝状を出してくれたんですよ。指名料も上乗せで。……それでですね、次の依頼も『ゼファーさんに』って話が、もう二件来てます」
カウンターの端で、銀狼の牙の取り巻きが、こっちを見て何か言いかけて、やめた。言い返す材料が、もうないのだ。
実績は、嘘をつかない。祝福の欄より、達成記録の欄のほうが、よほど雄弁に人を語る。
「エルシーさん。指名依頼、二件だそうです」
「は、はいっ……! えへへ……指名、ですって……」
嬉しさを噛みしめる横顔に、もう、ギルドの隅で裾を握っていた影はなかった。




