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2-06 あなたのバフで、もっと速く

本作品を読んでいただき、ありがとうございます。

ご相談です…。


他の方の作品を読んでいて、本作品の一話あたりの読みごたえが薄い…ような気がしております。

もう少し、一話あたりの分量を増やそうか、どうしようか…と検討しております。

自分が10年以上なろう作品を読み続けていると言うこともあり、自分の感覚はヘビーユーザー寄りのような気がしており…ご意見いただければと思います。

 翌日、俺たちは岩場のさらに奥、人気のない涸れ沢に来ていた。


 実演には観客がいらない。むしろ、いてはいけない。今日この場所で起きることは、当分、二人だけの秘密にしておきたかった。


「じゃあエルシーさん、お願いします」


「は、はいっ。……あの、本当にいいんですか? 私の祝福、かけられた人はみんな『気持ち悪い』って言うんです。体の感覚がずれるからって。銀狼の牙でも一度かけたら、二度とかけるなって……」


「知ってます。感覚がずれる。――俺は、そのずれに会いに来たんです」


 エルシーさんは不安そうな顔のまま、それでも両手を組んで、目を閉じた。


 祈りの言葉は、透きとおっていた。長さは十秒。詠唱の間、彼女の指先に灯った光が、ゆっくりと俺の胸へ流れ込んでくる。


――――――――――


祝福『攻撃速度上昇』を受けました


状態:祝福(効果・大)


――――――――――


「……っ」


 世界の音が、半歩遠くなった。


 まず、指だった。試しに開いて、閉じる。速い。自分の意図より、ほんのわずかに先に、手が動き終わっている。あの「ずれ」だ。皆が気持ち悪いと呼ぶ、意図と体の間の隙間。


 なるほど、確かに、普通の剣士なら狂うだろう。十年かけて体に刻んだ「自分の速さ」が、他人の速さになるんだから。


 でも、俺は。


 俺は十二年、この「ずれ」の向こう側を夢見てきた。


「エルシーさん。少し下がっててください」


 剣を抜いて、正面の枯れ木に向き合う。呼吸をひとつ。いつもの構え。いつもの初動。そこから――振った。


 速い。


 振り終わりが、俺の知っている時間より、確かに早く来る。二撃目。体が置いていかれない。三撃目、四撃目。ずれが、なじむ。意図と体の隙間に、俺の十二年が流れ込んで、埋まっていく。ああ、これだ。この感覚を、俺はゲームの画面越しに、何万回も想像した。


 処理落ちはない。エフェクトの省略もない。サーバーは、どこにもない。


 俺の速さを、世界が一瞬も待たせない。


 気づけば、笑っていた。声を出して笑いながら枯れ木を刻む男は、傍から見ればかなりまずい絵だったと思う。でも止まらなかった。楽しい。楽しい。速くなることが、ただ、こんなにも楽しい。


 ――視界の端で、枯れ木の幹が、ずるりと斜めに滑り落ちた。


 数十の浅い斬撃が、同じ線の上に重なって、いつの間にか幹を断っていた。俺は剣を納めて、息を吐いた。汗が気持ちいい。


「エルシーさん。ありがとうございました。素晴らしい祝福です」


 返事がなかった。


 振り返ると、彼女は両手を組んだ祈りの形のまま、ぼろぼろと泣いていた。


「え!? ど、どうしました!? どこか痛――」


「だ、だって……」


 彼女はしゃくり上げながら、途切れ途切れに言った。


「私の祝福で……誰かが、あんなふうに……あんなに嬉しそうに、笑ってくれたの……初めて、で……。ずっと、気持ち悪いって、二度とかけるなって……外れだって……。それが、それがぁ……」


 ああ、もう。


 俺は懐から手ぬぐいを出して、差し出した。彼女の祝福が「誰にも喜ばれなかった十二年」と、俺の「誰にも信じられなかった十二年」は、たぶん同じ形をしている。


「エルシーさん。はっきり言います」


「ふぁい……」


「あなたの祝福は、俺の目指す場所に、絶対に必要です。今日ので確信しました。この先どれだけ称号を積んでも、装備を揃えても、最後の最後、頂の一歩手前で必要になるのは、あなたの祝福です」


「いただき……?」


「攻撃速度の、頂です。誰も見たことのない速さの領域。――そこに、一緒に行ってほしい」


 エルシーさんは手ぬぐいを顔に押し当てたまま、何度も、何度も頷いた。


「行きます……! 私、行きますっ……! が、頑張りますから……! いっぱい、かけますから……! もう、その、遠慮なく、浴びるほどかけますから……!」


「浴びるほどは詠唱が持たないのでは」


「気持ちの問題です!!」


 泣きながら怒られた。


 帰り道、夕焼けの街道を並んで歩きながら、彼女は何度も自分の手のひらを見ていた。その横顔は、初めて会った日の、ギルドの隅で裾を握っていた子とは、もう別人みたいだった。

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