2-05 初めての狩り
パーティー『ゼファー』の初仕事は、岩場のゴブリン討伐にした。
俺が一度通った場所で、地形も敵の癖も頭に入っている。初めての連携で大事なのは、敵の強さより「知っている場所」であることだ。検証は、変数を一つずつ増やす。基本である。
道中、俺はエルシーさんと取り決めを三つ交わした。
「一つ。エルシーさんの立ち位置は、常に俺の斜め後ろ七歩。俺が右手を上げたら、そこの岩まで下がる。二つ。危なくなったら、俺を置いて逃げる。逃げ道はここと、ここ。三つ――」
「ハヤトさんを置いて逃げるなんて、できません!」
「三つ。回復を使う相手の優先順位は、一番があなた自身、二番が俺。ヒーラーが立ってさえいれば、パーティーは立て直せますから」
「じ、自分が一番って……そんなパーティー、聞いたことないです」
「うちの流儀です。慣れてください」
エルシーさんは不服そうだったが、真面目な子なので「覚えます」と復唱した。よし。
岩場に着く。先週逃した二匹が仲間を連れ戻したのか、群れは六匹に戻っていた。見張り一匹、棍棒三、投石二。配置も先週とほぼ同じ。助かる。
「エルシーさんは、まだ祝福を使わないでください」
「え? で、でも、私にできるのって、それくらいしか」
「今日はまず、俺の『素』を見てもらう日なので。――基準がないと、あなたの祝福の価値は測れませんから」
彼女を岩陰に配置して、俺は歩き出した。
石をひとつ、見張りの背後へ。釣れた。ここからは、いつも通りの作業だ。
一匹目、振り向く前に首筋へ二度、腱へ一度。二匹目、棍棒が持ち上がる遅い瞬間に手首、肘、膝。三匹目の投石は、投げる前の肩の開きで軌道が分かる。半歩ずれて、そのまま懐へ。
浅く、速く、数を振る。相手の動作の隙間に、俺の攻撃だけが存在する時間を差し込み続ける。
四匹目と五匹目の同時突進は、交差点の外へ一歩。勝手にぶつかったところへ手数。六匹目は逃げる素振りから振り向きざまの一撃――アルオンのゴブリンの十八番だ。知っている。振り向いた先に、俺はもういない。
終わり。
息を整えて、討伐部位の処理を済ませてから、俺は岩陰へ戻った。エルシーさんは、両手で口を覆ったまま固まっていた。
「お待たせしました。怪我はないですか」
「…………いま」
「はい」
「いまの、なんですか?」
「ゴブリン討伐です」
「そうですけど!! そうじゃなくて!!」
彼女は岩陰から転がり出て、俺とゴブリンを何度も見比べた。
「一回も、当たってないじゃないですか……! 六匹ですよ? 囲まれてたのに、かすりもしてない……! 銀狼の牙の前衛さんでも、ゴブリン六匹なら絶対どこか殴られてました! なのに、なんで……」
そこで彼女は、はっと何かに気づいた顔をして、失礼にならない程度の小声になった。
「……あの、ハヤトさんって、実はすごく位階の高い方だったり……?」
「いえ。見ての通りの駆け出しです。装備も中古ですし」
「駆け出しは、あんな動きしません!!」
ごもっとも。でも嘘は言っていない。ステータスは正真正銘、駆け出しのそれである。
「種明かしをすると、俺は敵の攻撃を、来てから避けてないんです。来る前の、準備の動きを見てます。肩、肘、腰、目線。攻撃には必ず『予告』がある。予告の段階で外れておけば、当たりようがない」
「よ、予告って……そんなの、見えるものなんですか?」
「見えるまで、練習しました。だいぶ長いこと」
一万回死んで、とは言わないでおく。
エルシーさんはしばらく呆然としていたが、やがて、ぽつりと言った。
「……なんなの、この人……」
「エルシーさん、声に出てます」
「はっ!? す、すみません!!」
真っ赤になって頭を下げる相棒に、俺は笑って、それから岩場の先を指さした。
「基準は、見てもらいました。じゃあ次です。――あなたの祝福が、これをどう変えるのか。明日、見せます」




