2-04 初めて「欲しい」と言われた
翌朝、俺は宣言通り、ギルドの受付に書類を出した。
「パーティー結成の申請です。構成員二名。俺と、聖職者のエルシーさん」
受付のソフィさんは、書類と俺の顔を交互に見て、それから背筋を伸ばした。
「……ハヤトさん。担当として、一応の確認です。昨日のあれ、ギルド中が見てたんですけど」
「お恥ずかしい」
「勧誘の熱意は、その、伝わりました。伝わりすぎて床が抜けるかと思いました。――でも、これだけは聞かせてください」
ソフィさんの目は、受付嬢の目ではなく、保護者の目になっていた。
「一時の気の迷いで、あの子を拾うんじゃないですよね? エルシーさん、この半年ずっと見てきましたけど、真面目ないい子なんです。もう一回捨てられたら、今度こそ立てなくなります」
いい受付だ、本当に。この人が担当で、俺は運がいい。
「気の迷いで、十二年は探せません」
「……十二年?」
「俺はずっと、攻撃速度の祝福を持つ聖職者を探していました。彼女の祝福は、俺の目指すものに、どうしても要る。だから拾うんじゃありません。俺のほうが、拾ってもらう側です」
ソフィさんはしばらく俺を見つめて、ふ、と息を吐いた。
「……ハヤトさんって、変ですけど、嘘はつかないんですよね。呪いも『そのうち解除します』って正直に先延ばしにしますし」
「それは正直と言うんでしょうか」
「言いません」
言わないのか。
そこへ、ギルドの扉が開いて、エルシーさんが入ってきた。今日も生真面目に、開店と同時である。俺とソフィさんと書類を見て、彼女は小さく息を呑んだ。
「ほ、本当に、書類……」
「昨日の今日で申し訳ないですが、署名の欄が空いてます。……もちろん、実演を見てからでも」
エルシーさんは、カウンターの上の申請書をじっと見た。
構成員の欄。俺の名前の隣に、彼女の名前を書くための、空白。
「……あの。ひとつだけ、聞いてもいいですか」
「どうぞ」
「昨日、言ってくれましたよね。祝福『ごと』、私が必要って。……あれから一晩考えたんですけど、やっぱり、その、うまく信じられなくて。私、回復は平均ですし、祝福は……ずっと、笑われてきたものですし」
彼女は顔を上げた。目の縁が、少し赤かった。
「どうして、そこまで言い切れるんですか」
俺は少し考えて、正直に答えることにした。
「俺も、笑われてきたからです」
「……え?」
「攻撃速度なんかに人生を賭けて、ずっと笑われてきました。無駄だ、外れだ、何に使うんだと。――でも、俺の積み上げてきたものと、あなたの祝福は、組み合わさると多分、誰も見たことのないものになる。それを知ってるのが、今はまだ世界で俺一人なんです。だから言い切れます」
誰も見たことのないもの。
その言葉に、エルシーさんの瞳が、わずかに揺れた。
「……私の祝福、本当に、誰かの役に立ちますか」
「役に立つ、どころじゃないです」
「……私を、その、必要って言ったの……ハヤトさんが、初めてなんです。祝福が顕現してから、初めて」
彼女はぐしっと目元を拭って、ペンを取った。
角の揃った、生真面目な字が、空白を埋めていく。エルシー。書き終えて、彼女は深々と頭を下げた。
「ふつつかものですが……よろしく、おねがいします……!」
「こちらこそ」
ソフィさんが、受理の判を、心なしかいつもより力強く押した。
「はい、受理しました! ……パーティー名の欄が空白ですけど、どうします?」
パーティー名。考えていなかった。エルシーさんと顔を見合わせる。彼女はぶんぶんと首を振った。決めろということらしい。
速い風の名前が、ひとつ、頭に浮かんでいた。
「――『ゼファー』で」
「ゼファー……どういう意味ですか?」
「西からの、追い風のことです」
いつか誰よりも速く走るための、追い風。二人きりの、世界最小の最速パーティー。その結成の瞬間を、ソフィさんの明るい判子の音が、ぽんと祝ってくれた。




