2-03 気持ち悪い勧誘
――ここまでは、完璧だった。
目線を合わせ、仕様を確認し、誠実に、簡潔に、要点だけを伝えた。我ながら理想的な勧誘の入りだったと思う。
問題は、彼女が「世界で唯一の当たり」という言葉に、こう返してきたことだ。
「あの……攻撃速度の、どこがいいんですか……?」
どこがいいか。
どこがいいか、だって?
……ふ。
ふふふ。
聞いてくれるのか、それを。十二年間、誰にも聞かれなかったそれを。
「聞きたいですか」
「え、あ、はい」
「長くなりますが」
「は、はい?」
「まず大前提として、世間の連中は攻撃速度を『通常攻撃の振りが少し速くなるだけ』と言います。はい、これ、事実です。事実なんですが、この『だけ』が諸悪の根源でして、いいですか、攻撃というのは当てて初めて意味があるんじゃない、振る回数そのものに意味があるんです。固定ダメージ、攻撃回数を条件に発動する装備効果、状態異常の蓄積、敵の行動を止める怯み、これら全部が『何回振ったか』を参照する。つまり攻撃速度は火力ではなく回数の資源であって、回数はすべての可能性の母数で、母数が増えるということは世界のあらゆる扉が開くということで――」
「あ、あの」
「そこにあなたの祝福です。いいですか、攻撃速度という値は、レベルでは上がらない。称号でコンマ数%、装備で数%、そうやって爪の先で積み上げるしかない、世界一けちなステータスなんです。そこに『大きく上昇』ですよ? 祝福一発で? それがどれほど、どれっっっほど破格のことか! 例えるなら砂粒を集めてる男の前に砂山がどんと来る話で、いや違うな、砂山どころじゃない、これは山脈で――」
「あ、あの、お客さ……ハヤトさん? でしたっけ……?」
「しかも詠唱十秒! 戦闘中にかけ直せる! 天才の設計です! 神は分かっていらっしゃる! なのに世間はそれを外れと呼ぶ! 外れ!? 冗談じゃない、俺は十二年探したんですよ、あなたのような聖職者を! いなかった! どこにも! それが今、目の前に! 実在して! 息をしている!!」
「ひぇ」
エルシーさんが、一歩引いた。
周囲を見る。ギルド中が、こっちを見ていた。受付のソフィさんが、両手で顔を覆っていた。指の間から、こっちを見ていた。
……落ち着け。深呼吸だ。
「失礼しました。取り乱しました」
「は、はい……」
「ですが、撤回はしません。要点をまとめます」
俺は指を三本立てた。
「一つ。あなたの祝福は、外れではありません。俺の知る限り、この世界で最も価値のある祝福の一つです。二つ。俺はその価値を、口だけでなく結果で証明できます。三つ――」
三本目の指を折って、頭を下げた。
「俺のパーティーに、入ってください。あなたが必要です」
沈黙が落ちた。
顔を上げると、エルシーさんは修道服の裾を握りしめたまま、震えていた。
まずい。怖がらせたか。当然だ。初対面の男が目を血走らせて山脈の話をしたのだ。俺だって引く。ゲームのフレンドにも昔よく言われた。「お前の攻撃速度語り、初見に浴びせるな」と。
「……あの」
彼女の声は、震えていた。
「わたし、を……必要って、言いました……?」
「言いました」
「祝福ごと……ですか? 祝福が、じゃなくて……?」
その区別に、俺は一瞬、言葉を選び直した。大事な質問だ。たぶん、この半年でいちばん。
「祝福『ごと』です。回復は平均と聞きましたが、二年間、中級パーティーの回復役を務め上げた実績がある。掲示板のメモに祝福を正直に書く誠実さがある。それも込みで、あなたに来てほしい」
エルシーさんは、うつむいた。
長い沈黙のあと、消え入りそうな声がした。
「……からかって、いませんか……?」
からかっていない、と即答するのは簡単だった。でも、この半年の彼女には、言葉だけでは足りないだろう。
「明日、ギルドの受付に正式なパーティー申請を出します。書類で、判子つきで」
俺は言った。
「それから、実演もします。あなたの祝福が本物の当たりだという証明を、あなた自身の目で見てください。……その上で、断ってくれても構いませんから」




