2-02 変人、探し物を見つける
酒場で聞き込んだ話を、俺は三日かけて裏取りした。
焦る気持ちはあった。正直、その晩のうちに宿を叩き起こして回りたかった。でも、考えてもみてほしい。十二年探した相手だ。第一印象を事故らせて警戒されたら、目も当てられない。こういうときこそ、焦らず、確実に、一件ずつ。
わかったことは、こうだ。
銀狼の牙が手放した聖職者は、エルシーという名前の女の子。歳は俺より下。回復の腕は平均、勤勉さは折り紙付き。位階の儀で顕現した祝福が「攻撃速度」で、それを理由に、パーティーを追われた。
今も街に残って、加入先を探し続けている。
――探し続けている。この半年、笑われながら、ずっと。
俺はギルドの掲示板の前に立って、そのメモを見つけた。
『聖職者(回復・支援)パーティー加入希望。真面目に働きます。祝福:攻撃速度』
丁寧な字だった。角の揃った、生真面目な字。紙の端には破られた跡があって、その上から書き直して、貼り直してある。
祝福の欄を、空白にしていない。
隠せば面談までは行けるだろうに、最初から正直に書いている。笑われると分かっていて、それでも相手の時間を無駄にしないほうを選ぶ字だ。
……ゲームのフレンド募集掲示板を、思い出した。俺も昔、正直に書いたのだ。『攻撃速度特化。真面目にやってます』。笑われた。晒された。でも、あれを見て声をかけてくれた数人と、俺は十二年遊んだ。
メモの前で突っ立っていたら、視線を感じた。
ギルドの隅。壁際の長椅子のそば。修道服の裾を握りしめた、亜麻色の髪の女の子が、こっちを見ていた。
目が合う。
間違いない。聞いた特徴のままだ。というか、メモの字と同じ顔をしている。生真面目で、丁寧で、端っこがちょっと破れて、でも貼り直してある顔だ。
俺は深呼吸をひとつして、歩き出した。
彼女の肩が、びくりと跳ねる。近づくにつれて、その表情が硬くなっていくのが分かった。警戒。諦め。それから、慣れ。ああ、この子は「これから笑われる」ことに慣れているんだ。
その慣れ方が、少しだけ、昔の俺に似ていた。
「――エルシーさん、ですよね。掲示板のメモを見ました」
「は、はい……あの」
彼女はぎゅっと裾を握って、先回りするように早口で言った。
「祝福のことなら、その、本当に攻撃速度で……回復は平均ですし、笑われるのも慣れてますから、その、お気になさらず……」
「笑いません」
「……え?」
「確認させてください。祝福は攻撃速度。対象一人に付与する形で、効果時間があって、重ねがけはできない。合ってますか」
「あ……は、はい。合ってます、けど……」
「発動の詠唱は長いですか。戦闘中にかけ直せる長さですか」
「みじ、短いです。十秒くらいで……あの、あの?」
彼女は目を白黒させている。当然だ。この半年、祝福の「仕様」を真面目に質問してきた人間は、たぶん一人もいない。
俺は膝に手をついて、目の高さを合わせた。落ち着け。順序立てて、誠実に、怖がらせないように。言うべきことは一つだけだ。
「単刀直入に言います」
息を吸う。
「あなたの祝福が、欲しい。ずっと探していました」
エルシーさんは、ぽかんと口を開けた。
まばたきを三回。それから、掠れた声で言った。
「……攻撃速度、ですよ?」
「はい」
「外れ、ですよ……?」
「いいえ」
俺は首を横に振った。ゆっくり、はっきりと。
「俺にとっては――世界で唯一の、当たりです」




