2-01 外れ聖職者
第二章「聖職者編」、本日より開幕です。
本話は、ヒロイン・エルシー視点の回となります。
本日より毎日20時更新でお届けします。よろしくお願いします!
<<エルシー視点>>
――私の祝福が顕現した日のことを、今でも毎晩、夢に見る。
私、エルシーは、聖職者だ。
ラトナの教会付属の学び舎で癒しの術を修めて、十五で見習いを卒業して、冒険者パーティー『銀狼の牙』に拾ってもらった。回復役として、二年間、必死に働いた。
正直に言うと、私の回復魔法は、平均くらいだ。ずば抜けて優秀ではない。でも真面目さだけが取り柄だから、誰よりも早く起きて水を汲んで、皆の装備を清めて、戦闘では目を皿にして怪我を追いかけた。
それでも居場所をもらえていたのは、皆が「期待」していたからだ。
――祝福。
聖職者が位階を積むと、いつか必ず顕現する、神さまからの贈り物。どれか一つのステータスを大きく引き上げる、聖職者だけの固有のバフ。何が授かるかは、神さまのみぞ知る。
攻撃力の祝福なら、前衛の一撃が見違える。防御の祝福なら、盾役は鉄壁になる。祝福は聖職者の看板で、パーティーの未来そのものだ。
「エルシーの祝福、何が来るかなあ」
「攻撃力なら最高だな。ガルドさんの斧がやばいことになる」
「防御でも当たりだろ。なんなら最大体力でもいい」
囲炉裏端でそんな話をする夜が、私は大好きだった。早く皆の役に立ちたくて、祈りの時間をこっそり倍にしていた。
そして、あの日。
位階の儀の朝、教会の聖堂で、私の手の甲に光の紋様が浮かんだ。司祭さまが厳かに紋様を読み上げる、その瞬間まで、私は世界で一番幸せな聖職者だった。
「――祝福、『攻撃速度』」
聖堂が、静まり返った。
最初に吹き出したのは、誰だったんだろう。付き添いで来ていた銀狼の牙の誰かだったと思う。堪えきれない失笑は、すぐに遠慮のない笑い声になった。
「攻撃速度って、お前」
「振りが速くなるだけのアレか? 威力そのまま?」
「スキルにも乗らないんだろ? 何に使うんだよ」
何に使うんだよ。
その一言は、それから二年経った今も、私の耳の奥に住み着いている。
パーティーの空気は、その日から変わった。期待という名の椅子が消えて、私はただの「回復が平均の聖職者」になった。ううん、それより悪い。「外れを引いた聖職者」に。
半年前、リーダーのガルドさんに呼ばれて、こう言われた。
「悪いが、次の遠征から聖職者を入れ替える。攻撃力の祝福持ちが空いたんでな。……お前も分かってただろ、エルシー」
分かっていた。分かっていたけど、荷物をまとめて宿を出るとき、二年間住んだ部屋を振り返ったら、涙が止まらなかった。
それからの半年は、坂道を転がるようだった。
新しいパーティーを探して、ギルドの掲示板に募集メモを貼る。祝福の欄を空白にすると、面談で必ず聞かれる。正直に書くと、メモの前で笑われる。三つ目のパーティーには一週間で「やっぱりごめん」と言われ、四つ目には面談にすら進めなかった。
所持金は、あと銀貨一枚と少し。宿は一番安い相部屋。神さまに祈る回数だけが、増えていく。
――神さま。私、何か悪いことをしましたか。
祝福って、何ですか。これのどこが、祝福なんですか。
……ううん。だめだ、こういうの。よくない。
私は頬をぱちんと叩いて、今日もギルドの隅に立つ。掲示板の私のメモは、今朝も端が破られていたけれど、新しく書き直して貼った。字は丁寧に。読んでくれる誰かに、失礼のないように。
『聖職者(回復・支援)パーティー加入希望。真面目に働きます。祝福:攻撃速度』
昼下がりのギルドは今日も賑やかで、誰も私のメモの前では足を止めない。
止めない、はずだった。
――一人の男の人が、メモの前に立っていた。
じっと、微動だにせず、私の書いた文字を見つめている。あんまり長いこと見ているものだから、周りの冒険者たちがちらちらと振り返るくらいに。
あ。あの人、確か。
噂で聞いたことがある。呪いを放置して、毒を飲んで、猫に挨拶して回っている、腕は立つけど変わり者だっていう、新人の――。
その人が、ゆっくりとこちらを向いた。
目が、合った。




