1-12 存在しないはずの聖職者
この世界の聖職者には、「祝福」がある。
教会で聞き込んだところ、仕組みはアルオンと同じだった。聖職者は一人につき一つ、どれかのステータスを大きく上昇させる固有のバフ――祝福を授かる。攻撃力の祝福、防御力の祝福、最大体力の祝福。どれを授かるかは、神のみぞ知る。完全にランダムだ。
攻撃力の祝福を持つ聖職者は、前衛パーティーから引く手あまた。防御の祝福なら盾役たちの宝。祝福は聖職者の看板であり、値札であり、人生そのものらしい。
――で、だ。
アルオンには、攻撃速度の祝福を持つプリーストは、存在しなかった。
正確に言えば、「存在できなかった」。
理由は単純だ。アルオンは、スキルで戦うゲームだった。ダメージを出すのはスキルで、通常攻撃はスキルの合間の添え物。そして攻撃速度の祝福が速くするのは、その添え物の振りだけ。つまり――火力に、一切寄与しない。
攻撃力の祝福が「当たり」なら、攻撃速度の祝福は「完全な外れ」。おまけに、かけられた側は通常攻撃の感覚が狂うとまで言われ、嫌われ放題だった。だから、キャラクター作成で攻撃速度の祝福を引いたプレイヤーは、その場でキャラを消して作り直した。それが常識で、礼儀ですらあった。
十二年間、俺はずっと探していた。攻撃速度の祝福を持つプリーストを。フレンド募集掲示板に書き込み、外部ツールで検索をかけ、それらしい噂を追いかけて。結局、一人も見つからなかった。生まれた瞬間に消される存在は、探せないのだ。
だが、この世界は違う。
この世界の聖職者は、生きた人間だ。作り直しなんて、できない。
攻撃速度の祝福を引いた聖職者は――消されずに、どこかで生きている。
「ソフィさん。変なことを聞きますが」
「ハヤトさんの質問が変なのはいつものことです。どうぞ」
ひどい。まあいい。
「攻撃速度の祝福を持つ聖職者って、聞いたことありませんか」
「攻撃速度の……祝福?」
ソフィさんは、きょとんとした。それから記憶を探るように視線を上げて、首を横に振った。
「聞いたこと、ないですね……。攻撃力なら何人か。でも攻撃速度って。それ、祝福としては、その……」
「外れ、ですか」
「は、はっきりとは言いませんけど……。祝福って、パーティーに入るための看板ですから。速さがちょっと上がっても、ねえ? って、なっちゃうというか」
なるほど。この世界でも、評価は同じか。
攻撃速度は、死にステ。誰も欲しがらず、誰も探さない。
――なら、競争相手はいない。
それから数日、俺は依頼をこなす傍ら、聞き込みを続けた。教会の炊き出しを手伝いながら司祭さまに。武具屋の店先で常連たちに。ノエル工房で、研ぎを待つ間に。
「攻撃速度の祝福ですかぁ……聞いたことないです。あっ、でも、パーティー募集の掲示板は見ました? 聖職者さんの情報なら、あそこが一番早いですよ」
ノエルさんの助言に従って、ギルドの掲示板前に張り込むこと二日目の夜。
酒場のテーブルから、その話し声は聞こえてきた。
「――で、『銀狼の牙』の連中、聖職者をクビにしたんだと」
「ああ、聞いた聞いた。祝福が外れだったんだろ? 回復もそこそこだったらしいし」
「外れって、何の祝福だったんだ」
「それがよ」
男は酒を呷って、笑いながら言った。
「攻撃速度、だとさ。よりにもよって、だろ? 速さの祝福の聖職者なんて、どこのパーティーが拾うんだよ」
どっ、と笑い声が上がった。
――俺は、静かに立ち上がった。
心臓が、うるさい。
落ち着け。まだ噂だ。人違いかもしれない。聞き間違いかもしれない。焦らず、確実に、一件ずつ。……いや、これは焦る。焦るだろう、こんなの。
十二年だ。
十二年探して、見つからなかった人が、この街の空の下にいる。
存在しないはずの聖職者が、いる。
「すみません」
俺は笑い声の輪に、できる限り穏やかに割り込んだ。
「今の話、詳しく聞かせてもらえませんか」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。第一章はこれにて完結です。
明日20時より第二章「聖職者編」開幕。存在しないはずの聖職者と、ようやく出会います。
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