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婚約破棄された伯爵令嬢が、王女の侍女になって王宮の食事改革を始めました  作者: 絵宮 芳緒
第十章 新たな立場

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第七話 整えられる未来

王宮の一室。


柔らかな光が差し込む中、


テーブルの上には、いくつもの書類が整然と並べられていた。


招待状。


日程の調整。


衣装の打ち合わせ。


一つ一つが、


確実に“その日”へと向かっている。


「……こんなに、あるのですね」


リディアは、思わず小さく息をついた。


向かいに立つ侍女が、穏やかに微笑む。


「公爵家との婚姻ですもの」


その言葉に、リディアは苦笑した。


だが――


その響きは、もう他人事ではない。


かつては“侍女”としてこの場にいた。


だが今は違う。


王宮料理顧問として。


そして、未来の皇太子妃クラリスを支える立場として。


自分の役割は、確実に変わっていた。


その時だった。


「失礼する」


扉が開く。


聞き慣れた声。


「カイル様」


自然と、表情がやわらぐ。


カイルは室内に入り、


書類の山を一瞥した。


「順調そうですね」


「ええ……少し、追いついておりませんが」


正直に答えると、


カイルはわずかに目を細めた。


「無理をする必要はありません」


静かな声音。


変わらない、落ち着いた響き。


そして――


一つの箱を差し出す。


「こちらを」


リディアは首を傾げる。


「……これは?」


「ドレスです」


その一言に、


侍女たちが小さく息を呑む。


リディアはそっと箱を開けた。


中に収められていたのは――


深い青のドレス。


静かに光を含む布地。


夜空のように澄んだ色が、


控えめに、だが確かに存在感を放っている。


思わず、息が止まる。


「……綺麗」


その言葉は、ほとんど無意識にこぼれた。


だが、すぐに気付く。


(……同じ色)


以前、贈られたものと同じ。


けれど――


その印象は、まるで違っていた。


前のドレスは、


やわらかく包み込むような形。


守られるように。


だが、これは違う。


すっきりとした線。


無駄のない構造。


美しさの中に、確かな芯がある。


立つための形。


「……立つためのドレス、ですか」


自然と、言葉がこぼれる。


カイルの瞳が、わずかに細められた。


「ええ」


短く答える。


「今の貴女に相応しい」


その言葉に、


リディアの胸が、静かに熱を帯びる。


カイルは続ける。


「これからは」


一拍置き、


静かに言う。


「王宮に常にいる必要はありません」


リディアは、ゆっくりと頷く。


もう、以前の立場ではない。


「料理顧問として関わるのみです」


「それ以外は――」


視線が、わずかに和らぐ。


「私と共に」


当然のように告げられる言葉。


だが、その意味は重い。


リディアは、それを受け止める。


逃げることもなく、


戸惑うこともなく。


「……はい」


その声に、迷いはない。


その時。


侍女がそっと口を開いた。


「ご婚礼前に、一度ご実家へ戻られます」


リディアの表情が、やわらぐ。


「……はい」


伯爵家の娘として。


そして、一人の娘として。


最後に過ごす時間。


カイルは何も言わない。


だが、その沈黙は否定ではない。


理解しているからこそのものだった。


リディアは、もう一度ドレスを見る。


同じ色。


だが、違う意味。


守られる色ではない。


並び立つための色。


(……変わったのね)


自分も。


そして――


立場も。


静かに。


だが確かに。


未来は、整えられていく。


選び取った形へと。

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