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婚約破棄された伯爵令嬢が、王女の侍女になって王宮の食事改革を始めました  作者: 絵宮 芳緒
第十章 新たな立場

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第五話 揃う視線

王宮の大広間は、まだ夜会の余韻に満ちていた。


楽団の奏でる音は穏やかに流れ、


グラスの触れ合う音や、低い笑い声が重なり合う。


だが――


その空気の流れは、どこか一方向へと傾いていた。


視線。


人々の意識が、自然と集まっていく。


その先にいるのは――


リディア・フォン・アルヴェルン。


深い青のドレスを纏い、


静かに佇む伯爵令嬢。


その隣には、


カイル・フォン・ヴァルディーク。


黒の正装に身を包み、


わずかに寄り添うように立っている。


二人の間に、言葉はない。


だが――


その距離が、すべてを語っていた。


「……あれが」


小さな声が、どこからか漏れる。


「例の」


「王宮料理顧問」


「公爵家が――」


囁きは、抑えられている。


だが完全には隠しきれない。


それは、好奇ではなく。


確信へと変わりつつあった。


リディアは、わずかに息を整える。


(……見られている)


その感覚は、はっきりとあった。


だが――


視線を逸らすことはない。


足元も、揺れない。


以前の自分なら、


戸惑い、距離を取っていたかもしれない。


だが今は違う。


その隣にいる存在が、


何よりも確かなものだった。


カイルは、動かない。


ただ静かに立っている。


だが、その在り方が、


周囲の空気を変えていた。


不用意に近づく者はいない。


軽々しく声をかける者もいない。


それだけで、十分だった。


その時――


ふと、音が変わる。


楽の流れが、わずかに整う。


ざわめきが、自然と引いていく。


誰かが声を上げたわけではない。


だが、誰もが気づく。


(……陛下)


空気の奥で、


王の気配が動いた。


人の流れが、ゆっくりと開く。


視線が、一斉に向く。


その先。


王の進む道が、静かに形作られていく。


そして――


その延長線上にいるのが、


リディアと、カイルだった。


リディアの鼓動が、わずかに早まる。


(……このまま)


何かが起こる。


そんな予感が、胸の奥で静かに広がる。


だが、不思議と恐れはなかった。


逃げたいとは思わない。


ただ――


受け止める準備だけが、整っていく。


その隣で。


カイルが、わずかに視線を上げた。


決まっている。


その瞳は、そう告げていた。


そして。


ゆっくりと、一歩前へ出る。


その動きは、静かだった。


だが――


場の空気を、完全に変えるには十分だった。


ざわめきが、止まる。


音が遠のく。


すべての視線が、彼に向けられる。


リディアは、その背を見つめる。


止めない。


声もかけない。


ただ――


見届ける。


その一歩を。


王の前へと進む、その姿を。


それはもう、


誰にも止められないものだった。

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