表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された伯爵令嬢が、王女の侍女になって王宮の食事改革を始めました  作者: 絵宮 芳緒
第八章 揺れる想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/107

第十七話 選ばせない意思

「リディア嬢」


振り向いた先にいたのは、カイルだった。


その瞳は、まっすぐにこちらを捉えている。


先ほどと同じはずなのに――


違う。


迷いが、完全に消えている。


リディアの胸が、大きく鳴る。


「カイル様……」


思わず、声が少しだけ揺れた。


カイルはゆっくりと歩み寄る。


その距離は、ためらいなく詰められる。


先ほどよりも、近い。


「少し、お時間を」


落ち着いた声。


だが、その中に迷いはない。


リディアは、ほんの一瞬だけ迷う。


けれど――


「……はい」


頷いていた。


カイルはそれを確認すると、静かに歩き出す。


人目の少ない回廊へ。


先ほどとは違う。


今度は、完全に二人きりだ。


足を止める。


静寂が落ちる。


カイルは振り返り、リディアを見た。


逃げ場のない距離。


そのまま、口を開く。


「先ほどの話ですが」


低く、静かな声。


リディアの呼吸が、わずかに乱れる。


「……はい」


小さく答える。


カイルは一歩だけ距離を詰めた。


もう、すぐ目の前だ。


「迷っているのは、分かります」


断言だった。


リディアは、言葉を失う。


見透かされている。


だが――


嫌ではない。


カイルは続ける。


「ですが」


一拍置く。


その瞳が、さらに真っ直ぐになる。


「選ばせるつもりはありません」


その言葉に、リディアの瞳が大きく揺れた。


「……え?」


思わず声が漏れる。


カイルは静かに言う。


「他の選択肢を」


「考える必要はありません」


逃げ道を、塞ぐ言葉。


だが――


強引ではない。


ただ、真っ直ぐだ。


リディアの心臓が強く鳴る。


「……そんな」


否定しようとする。


だが、言葉が続かない。


カイルは、わずかに目を細めた。


「嫌ですか」


静かな問い。


だが、その奥にはわずかな緊張がある。


リディアは息を呑む。


そして――


首を横に振っていた。


「……いいえ」


小さく、だが確かに。


その答えを聞いた瞬間。


カイルの瞳が、わずかに和らいだ。


ほんの一瞬だけ。


だが、確かに。


次の瞬間。


その手が、そっとリディアの手を取る。


今度は、迷いなく。


はっきりと。


「では」


低く、静かな声。


「私が決めます」


その言葉は――


宣言だった。


リディアの思考が止まる。


だが、不思議と恐れはない。


むしろ――


(……安心する)


その感情に、自分でも驚く。


カイルは手を離さない。


ただ、まっすぐに見つめている。


その瞳には、揺らぎはなかった。


「必ず」


一拍置く。


「私のもとへ来ていただきます」


逃げ道はない。


だが――


拒む気もない。


リディアの胸が、静かに熱を帯びる。


その瞬間。


彼女の中で、何かが確かに変わった。


まだ、言葉にはならない。


けれど――


もう、後戻りはできない。


二人の距離は、完全に変わっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ