第十五話 静かな確信
王宮の回廊。
窓から差し込む光の中を、カイルはゆっくりと歩いていた。
足取りは変わらない。
乱れもない。
だが――
その内側は、静かに定まっていた。
(……拒まなかった)
リディアの言葉。
「嫌では、ありません」
そして――
逸らさなかった視線。
あれで十分だった。
迷いは消えた。
その時。
「ヴァルディーク公爵子息」
声がかかる。
カイルは足を止めた。
振り向く。
そこにいたのは――
皇太子レオナルトだった。
「殿下」
カイルは一礼する。
レオナルトは軽く頷いた。
そのまま、ゆっくりと近づく。
その瞳は、すべてを見透かすように穏やかだった。
「……随分と、踏み込んだようだな」
穏やかな声。
だが、その内容は核心を突いていた。
カイルはわずかに目を細める。
「ご覧になっていましたか」
レオナルトは小さく笑う。
「ある程度はな」
一拍置く。
そして、静かに続ける。
「彼女は、どうだった」
試すような問いではない。
確認するような声。
カイルは迷わない。
「拒まれてはおりません」
短く答える。
それだけで、十分だった。
レオナルトはふっと息をつく。
「……そうか」
小さく呟く。
その声には、わずかな納得があった。
そして――
「ならば」
視線が、わずかに鋭くなる。
「迷う必要はないな」
静かに言う。
カイルはわずかに目を細めた。
その言葉の意味は、分かっている。
レオナルトは続ける。
「王弟の名も出ている」
「王宮顧問の話もある」
「だが――」
一拍置く。
「それでも、動くのだろう?」
確認ではない。
すでに答えは分かっている問い。
カイルは、まっすぐに答えた。
「はい」
迷いはない。
その一言に、すべてが込められている。
レオナルトは、しばしカイルを見た。
そして――
わずかに口元を緩めた。
「いいだろう」
静かに言う。
「ならば、先に手を打て」
その言葉に、カイルの視線がわずかに鋭くなる。
「正式に、動け」
続けられた言葉。
それは――
許可だった。
王家としての。
カイルは一瞬だけ沈黙する。
そして、静かに頷いた。
「承知いたしました」
レオナルトは満足そうに目を細める。
「彼女は」
ふと、柔らかく言う。
「待つタイプではないが」
一拍置く。
「引かれるのも、得意ではない」
その言葉に、カイルの目がわずかに細められる。
「……はい」
短く答える。
理解している。
だからこそ。
レオナルトは軽く背を向けた。
「だからこそ」
振り返らずに言う。
「逃がすな」
その一言だけを残して、歩き去る。
足音が遠ざかる。
再び、静寂。
カイルはその場に立ったまま、わずかに息を吐いた。
「……言われるまでもありません」
小さく呟く。
その瞳には、もう迷いはない。
すでに決めている。
あとは――
動くだけだ。
静かに歩き出す。
その足取りは、確かだった。
迷いなく。
まっすぐに。
彼女のもとへ。




