第九話 静かな確信
夜会の音楽は、穏やかに続いていた。
だが会場の空気は、少しずつ変わり始めている。
最初の華やかなざわめきは落ち着き、代わりに静かな観察の視線が広がっていた。
その中心にいるのは――
銀の髪の令嬢。
リディア・フォン・アルヴェルン。
そして、その傍に立つ黒髪の青年。
ヴァルディーク公爵家の嫡男、カイル。
大広間の端。
王弟アルベルトはグラスを手に、その様子を眺めていた。
「……なるほど」
小さく呟く。
その隣には、皇太子レオナルトが立っている。
「どうだい」
楽しそうな声だった。
アルベルトはわずかに口元を緩める。
「分かりやすいな」
レオナルトはくすりと笑った。
「だろう?」
二人の視線の先では、リディアとカイルが言葉を交わしている。
距離は近い。
だが、まだ触れるほどではない。
そのわずかな間合いが、かえって目を引いた。
アルベルトは静かに言う。
「守るつもりは、最初からあったようだが」
「ここまでとはな」
レオナルトは肩をすくめた。
「本人は気づいていないようだけどね」
アルベルトは目を細める。
「どちらがだ」
その問いに、レオナルトは少し考えるふりをした。
そして、軽く笑う。
「……両方かな」
その言葉に、アルベルトも小さく笑った。
「面白い」
短く呟く。
しばらくの沈黙。
やがてレオナルトが言った。
「さて」
グラスを軽く揺らす。
「どうする?」
アルベルトは視線を外さずに答える。
「何もしない」
淡々とした声だった。
「しばらくはな」
レオナルトは楽しそうに目を細める。
「見守る、と」
アルベルトはわずかに頷いた。
「手を出す必要はない」
「……あの男が、動くまでは」
レオナルトはくすりと笑った。
「なるほど」
「では、私は少しだけ手を貸してしまったかな」
アルベルトは横目で見る。
「煽ったのか」
「少しだけね」
レオナルトは悪びれもせず答えた。
二人の視線の先では――
カイルが、リディアに何かを話している。
その表情は、普段よりわずかに柔らかい。
アルベルトは静かに言った。
「時間の問題だな」
レオナルトも同じ方向を見て、微笑む。
「ええ」
「間違いなく」
夜会の音楽は続く。
だがその裏で――
一つの関係が、静かに形を持ち始めていた。




