第四話 王弟のダンス
楽団の音楽が、ゆったりと流れ始めた。
王宮夜会、最初のダンスである。
会場の中央には、広い舞踏の輪が作られていた。
貴族たちは自然と道を開ける。
そこへ進み出たのは――
王弟アルベルトと、リディアだった。
その瞬間、小さなどよめきが広がる。
「王弟殿下だ」
「アルヴェルン伯爵令嬢と……?」
「やはり噂は本当だったのか」
囁き声が、あちこちから聞こえてくる。
リディアはそれを感じながらも、落ち着いた表情を保っていた。
王弟が静かに言う。
「やはり注目されているな」
リディアは苦笑する。
「殿下のおかげです」
王弟は小さく笑った。
「私のせいか」
音楽が少し高くなる。
王弟が手を差し出した。
リディアはその手を取る。
二人はゆっくりと踊り始めた。
王弟の動きは落ち着いていて、無駄がない。
優雅で、自然だった。
まるで長年踊り慣れているかのようだった。
リディアもその動きに合わせ、静かにステップを踏む。
深い青のドレスが、柔らかく広がる。
銀の髪が灯りを受けてきらめいた。
「よく似合っている」
王弟がふと呟く。
「そのドレス」
リディアは少し驚く。
「ありがとうございます」
そして、ほんの少しだけ視線を動かす。
会場の端に――
黒い髪の青年が立っていた。
カイル。
その視線は、静かにこちらへ向けられていた。
王弟はそれに気付いたようだった。
かすかに笑う。
「なるほど」
小さく呟く。
「公爵家の嫡男か」
リディアは一瞬だけ目を瞬かせた。
王弟は穏やかな声で続ける。
「安心するといい」
「今夜は、私が傍にいる」
その言葉に、リディアは少し笑った。
「ありがとうございます」
音楽はゆっくりと終わりへ向かう。
最後の旋律が流れる。
二人のダンスが静かに終わった。
周囲から小さな拍手が起こる。
王弟がリディアの手を軽く取る。
「楽しいダンスだった」
そして、会場の端へと戻る。
その途中――
王弟の視線がカイルへ向いた。
一瞬だけ、二人の視線が交わる。
王弟はほんのわずかに口元を緩めた。
「……遅いと」
誰にも聞こえないほどの声で呟く。
「取られるぞ」
その言葉を、カイルだけが聞いていた。




