第二話 公爵子息の贈り物
王宮夜会まで、あと二日。
第二王女アリアナの居室には、午後の柔らかな光が差し込んでいた。
机の上には色とりどりの布地が広げられ、侍女たちが忙しく動いている。
「この飾りはどうかしら」
「もう少し銀糸を増やした方が綺麗かもしれません」
そんな声が飛び交う中、リディアは少し困ったように笑っていた。
「ここまでしていただかなくても……」
だがアリアナはあっさり言う。
「だめよ」
「王宮夜会なのだから」
くすっと笑う。
「それに、社交界は今あなたの話で持ちきりでしょうし」
リディアは小さくため息をついた。
その時だった。
扉がノックされる。
侍女が顔を出した。
「カイル様がお見えです」
アリアナがにやりと笑う。
「どうぞ」
扉が開く。
入ってきたのはカイルだった。
黒い瞳が室内を見渡し、そしてリディアに止まる。
「お呼びでしょうか」
落ち着いた声だった。
だがその手には、細長い箱が一つあった。
リディアが首を傾げる。
「カイル様?」
カイルはその箱を差し出した。
「夜会の準備です」
短い言葉だった。
リディアは目を瞬かせる。
「私に……?」
カイルは静かに頷く。
「王宮夜会には相応しい装いが必要です」
「王宮の侍女としても」
あくまで当然のことのように言った。
アリアナの口元がわずかに緩む。
リディアはそっと箱を開けた。
中にあったのは――
一着のドレス。
深い青だった。
夜の海のように澄んだ色。
光を受けると、細かな銀糸が星のようにきらめく。
侍女たちが思わず息を呑む。
「……綺麗」
リディアの声は小さかった。
そのドレスは、彼女の銀髪によく映えるだろう。
アリアナはその色を見て、ふとカイルを見た。
そしてくすりと笑う。
「この色」
ゆっくり言う。
「カイルの瞳の色ね」
ほんの一瞬。
カイルの視線がわずかに逸れた。
侍女たちが顔を見合わせる。
リディアはきょとんとしていた。
「そうなのですか?」
純粋な声だった。
カイルは短く答える。
「……偶然です」
アリアナは楽しそうに肩をすくめる。
「そういうことにしておきましょう」
リディアはドレスをそっと持ち上げる。
青い布が静かに揺れた。
「ありがとうございます」
柔らかく微笑む。
「とても綺麗です」
カイルは何も言わなかった。
ただ一瞬だけ、リディアを見た。
青いドレス。
銀の髪。
よく似合うだろう、と心の中で思う。
やがて彼は静かに視線を外した。
王宮夜会まで、あと二日。
深い青のドレスは、きっと彼女によく似合う。
その姿を思い浮かべながら――
カイルは静かに目を細めた。




