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婚約破棄された伯爵令嬢が、王女の侍女になって王宮の食事改革を始めました  作者: 絵宮 芳緒
第七章 王宮夜会

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第一話 夜会の準備

王宮の午後は、柔らかな光に包まれていた。


第二王女アリアナの居室では、侍女たちが忙しく動き回っている。


机の上には色とりどりの布地と宝石箱が並べられ、部屋の中はまるで小さな仕立て屋のようだった。


「これはどうかしら?」


アリアナが一枚のドレスを広げる。


淡い銀色の生地だった。


窓から差し込む光を受けるたび、月の光のように柔らかく輝く。


リディアは少し困ったように微笑んだ。


「殿下……」


「こんな立派なものを着る必要があるのでしょうか」


アリアナは呆れたように肩をすくめる。


「当然でしょう?」


「王宮夜会なのよ」


侍女たちも小さく頷く。


「しかも、今回の件で社交界はあなたの話で持ちきりになるわ」


アリアナはくすっと笑った。


「主役が地味な格好では困るでしょう?」


リディアは小さく息を吐く。


「……分かりました」


その返事に、侍女たちの顔がぱっと明るくなった。


その時だった。


アリアナが思い出したように言う。


「そういえば」


「夜会のエスコートだけど」


リディアが顔を上げる。


「王弟殿下が名乗り出てくださったわ」


一瞬、部屋の空気が止まった。


侍女たちが小さくざわめく。


「王弟殿下が……?」


リディアも目を瞬かせる。


「私を、ですか?」


アリアナは頷いた。


「ええ」


穏やかな声だった。


「社交界に示す必要があるの」


「あなたが王宮に守られているということを」


リディアは少し考え、静かに頷いた。


「……承知いたしました」


その時。


扉がノックされる。


侍女が顔を出した。


「カイル様がお見えです」


アリアナが楽しそうに笑う。


「ちょうどいいわ。入っていただいて」


扉が開く。


入ってきたのはカイルだった。


黒い瞳が室内を一度見渡し、そしてリディアを見つける。


「お呼びと聞きました」


落ち着いた声だった。


アリアナは何でもないように言う。


「夜会のエスコートが決まったの」


カイルの視線がわずかに鋭くなる。


「……誰です?」


アリアナはさらりと言った。


「王弟殿下よ」


その瞬間。


ほんのわずかに、沈黙が落ちた。


カイルの表情は変わらない。


だが、黒い瞳がわずかに細くなる。


アリアナはそれを見逃さなかった。


くすりと笑う。


「社交界は大騒ぎになるでしょうね」


カイルは静かに息を吐いた。


「……そうでしょうね」


短い返事だった。


だがその声は、いつもよりわずかに低かった。


リディアはふと首を傾げる。


「カイル様?」


カイルはすぐにいつもの表情に戻る。


「何でもありません」


そして静かに言った。


「夜会を楽しんでください」


だがその言葉の奥に、ほんのわずかな硬さがあった。


王宮夜会まで、あと三日。


静かな準備の裏で――


それぞれの思惑が、ゆっくりと動き始めていた。

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