第七話 侯爵令嬢の末路
ダグラス侯爵邸の廊下は、騎士たちの足音で満ちていた。
重い鎧の音が石床に響く。
使用人たちは壁際に下がり、青ざめた顔でその様子を見ている。
その奥の部屋で――
一人の令嬢が怒鳴っていた。
「何なのよ、これは!」
イザベラ・フォン・ダグラスだった。
豪奢なドレスを身にまとい、騎士たちを睨みつけている。
「ここがどこだか分かっているの?」
扇を強く閉じる。
「ダグラス侯爵家よ!」
「勝手に入り込むなんて――」
その言葉は途中で止まった。
廊下の奥から、静かな足音が近づいてくる。
銀灰色の髪。
鋭い瞳。
王弟アルベルトだった。
その後ろには宰相ヴァルディーク公爵。
さらに騎士団が続く。
イザベラの顔色がわずかに変わった。
「……殿下」
だが、すぐに笑顔を作る。
「何か誤解があるようですわ」
優雅に一礼する。
「この家は王家に忠誠を――」
王弟が静かに言った。
「イザベラ・フォン・ダグラス」
その声は冷たかった。
「王宮侍女誘拐共謀の疑いで拘束する」
イザベラの笑顔が固まる。
「……は?」
小さく呟いた。
「何をおっしゃっているの?」
その時だった。
騎士の一人が前へ出る。
その後ろに、震える少女がいた。
ミレーヌ・フォン・カストラ。
イザベラの顔から血の気が引く。
ミレーヌは視線を落としたまま、小さく言った。
「……ダグラス令嬢が」
声が震える。
「リディア様を呼び出すようにって……」
イザベラが叫んだ。
「黙りなさい!」
だが、宰相が淡々と言う。
「証言はすでに取っている」
「馬車の男も捕らえた」
逃げ道はなかった。
イザベラの呼吸が乱れる。
「そ、そんな……」
必死に言う。
「私はただ紹介を――」
王弟の視線が冷たく落ちる。
「結果として」
静かな声だった。
「王女の侍女が攫われた」
その言葉で、空気が凍る。
イザベラの足がわずかに震えた。
騎士団長が短く言う。
「拘束」
騎士が近づく。
イザベラが後ずさる。
「ま、待って」
「父に話せば――」
だが、宰相の声が落ちた。
「ダグラス侯爵もすでに拘束されている」
その一言で。
イザベラの表情が崩れた。
「……嘘」
小さく呟く。
「そんな……」
騎士が腕を取る。
銀の拘束具がはめられる。
魔封じの腕輪だった。
その瞬間――
イザベラの体から魔力が消えた。
「……っ!」
膝がわずかに崩れる。
王弟が静かに言う。
「裁定は後ほど下される」
そして、冷たく続けた。
「だが」
「侯爵令嬢としての地位は、今日で終わりだ」
イザベラの顔が真っ白になる。
騎士たちは、そのまま彼女を連れて行った。
廊下には、重い沈黙だけが残った。




