第六話 侯爵家への訪問
王都の朝は、静かに始まった。
だが――
ダグラス侯爵邸の前には、すでに騎士団が集まっていた。
重い鎧の音。
馬の蹄の音。
門の前に整列する騎士たち。
その先頭に立つのは――
王弟アルベルト・エルフィリア。
銀灰色の髪が朝の光を受けて輝いている。
その隣には、宰相ヴァルディーク公爵。
そして、騎士団長が立っていた。
騎士団長が門を見上げる。
「ダグラス侯爵家」
低い声で言う。
「王命による調査だ」
門番の顔が青ざめる。
「し、少々お待ちを――」
だが、その言葉を王弟が静かに遮った。
「不要だ」
淡い光が、王弟の指先に集まる。
光魔法。
次の瞬間――
門の錠が、音もなく砕けた。
騎士団長が短く命じる。
「入れ」
騎士たちが一斉に動いた。
ダグラス侯爵邸の中は、騒然としていた。
使用人たちが慌てて廊下を走る。
「な、何事だ!」
怒鳴り声が響く。
階段の上から現れたのは――
ルーカス・フォン・ダグラスだった。
軽く髪をかき上げながら、騎士団を見下ろす。
「朝から騒がしいな」
だが、その視線が王弟を見た瞬間。
表情がわずかに変わる。
王弟が静かに言う。
「ルーカス・フォン・ダグラス」
その声は低く、冷たい。
「王宮侍女誘拐の疑いで拘束する」
廊下の空気が凍った。
ルーカスは一瞬黙る。
だがすぐに、くすりと笑った。
「侍女?」
肩をすくめる。
「たかが侍女のことで、王弟殿下がわざわざ?」
王弟の目が細くなる。
「たかが、ではない」
静かな声だった。
「王女の侍女だ」
その一言で、騎士たちの視線がさらに鋭くなる。
その時、奥の部屋の扉が開いた。
ダグラス侯爵が姿を現す。
重い沈黙が落ちた。
宰相がゆっくりと口を開く。
「ダグラス侯爵」
「王命による調査だ」
侯爵は静かに状況を見渡した。
そして、小さく息を吐く。
「……なるほど」
だが、その時だった。
ルーカスが笑った。
「まあいい」
騎士たちを見ながら言う。
「少し遊んだだけだ」
その視線が、宰相の後ろに向く。
そこには、カイルが立っていた。
黒い瞳が、冷たくルーカスを見ている。
ルーカスはゆっくりと笑う。
「お前か」
「邪魔したのは」
そして、低く呟いた。
「……あの娘は」
その目がわずかに歪む。
「俺のものになるはずだった」
その瞬間――
空気が凍りつく。
カイルの瞳が、静かに冷えた。
「二度と」
低い声だった。
「彼女に触れるな」
次の瞬間。
王弟の光魔法が走った。
眩い光が、邸内を包む。
ルーカスの体から魔力が弾かれる。
「……っ!」
膝がわずかに沈む。
騎士団長が命じた。
「拘束」
騎士たちが一斉に動いた。
鎖が鳴る。
ダグラス侯爵家の運命は――
この瞬間、決まった。




