第二話 宰相の判断
王女アリアナの居室には、重い沈黙が落ちていた。
リディアはソファに座り、温かい茶を手にしている。
少し顔色は戻ってきていた。
その向かいに、アルヴェルン伯爵。
そして、その隣にはレオンが立っている。
レオンの視線は、ずっと姉から離れない。
その時だった。
扉が静かに開く。
入ってきたのは、一人の男だった。
銀混じりの黒髪。
鋭い眼差し。
宰相――ヴァルディーク公爵である。
カイルの父だった。
部屋の空気が一瞬で引き締まる。
伯爵が立ち上がり、礼をした。
「宰相閣下」
宰相は軽く頷く。
「座ったままで構いません」
静かな声だった。
だが、その視線はすでに状況を全て把握しているようだった。
「アルヴェルン伯爵」
「今回の件、王宮の責任でもあります」
伯爵は首を振った。
「いえ」
「娘を守れなかったのは、父としての私の不覚です」
その言葉に、宰相は少しだけ目を細めた。
「ですが」
ゆっくり続ける。
「侯爵家が関わっている可能性が高い」
その一言で、部屋の空気が冷える。
レオンの拳が強く握られた。
「ダグラス侯爵家ですか」
低い声だった。
宰相は頷く。
「拘束魔法を使った形跡がある」
「さらに魔封じも施されていた」
その言葉に、伯爵の眉が動いた。
「……なるほど」
静かに呟く。
「土属性の魔法ですな」
宰相はリディアを見る。
「アルヴェルン家の魔法は植物系」
「本来なら拘束魔法に対抗できる」
「だが魔封じをされれば別だ」
リディアは小さく頷いた。
「……はい」
その時だった。
レオンが口を開く。
「姉上」
リディアが顔を上げる。
レオンの青い瞳が真っ直ぐ向けられていた。
「もう大丈夫です」
静かな声だった。
「次は、俺が守ります」
その言葉に、リディアは少し驚いたように目を瞬かせる。
だが、すぐに柔らかく笑った。
「頼もしいわね」
そのやり取りを見ていた宰相が、ふっと口元を緩めた。
「若いな」
小さく呟く。
そして、ゆっくりと続けた。
「だが」
その声が、再び冷える。
「これは家同士の問題になる」
「そして――」
宰相の視線が、窓の外へ向く。
「社交界の問題にもなるだろう」
その言葉は、静かだった。
だが。
嵐の始まりを告げる声だった。




