第六話 沈黙
王女アリアナの私室。
セドリックは深く頭を下げていた。
「申し訳ございません、殿下」
「ですが――」
「リディア様が戻られません」
アリアナは一瞬、言葉を失った。
「……戻らない?」
静かな声だった。
セドリックは頷く。
「庭へ向かわれたという侍女の証言があります」
「ですが、厨房には戻っておりません」
部屋の空気が、静かに張りつめる。
アリアナはゆっくり立ち上がった。
「……カイルを呼びなさい」
侍女が慌てて頭を下げ、部屋を出ていく。
それからほどなくして、扉が開いた。
「殿下」
入ってきたのはカイルだった。
黒い瞳が静かに室内を見渡す。
アリアナは迷いなく言う。
「リディアが戻らないの」
その言葉。
ほんの一瞬――
空気が凍った。
カイルは何も言わない。
ただ、ゆっくりと目を細めた。
「最後に確認されたのは庭です」
セドリックが言う。
「外門の近くの可能性もあります」
カイルは黙ったまま頷いた。
そして、静かに踵を返す。
「カイル?」
アリアナが呼び止める。
だがカイルは振り返らない。
扉の前で、短く言った。
「探します」
それだけだった。
だが次の瞬間――
廊下の空気が震えた。
足元の石床が、薄く白く染まる。
氷。
魔力がわずかに漏れている。
それを見て、アリアナは小さく息を吐いた。
「……本気ね」
そして静かに言う。
「王宮騎士を動かしなさい」
「すぐに」




