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婚約破棄された伯爵令嬢が、王女の侍女になって王宮の食事改革を始めました  作者: 絵宮 芳緒
第五章 侯爵令嬢の接触

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第四話 外門

王宮の庭は、昼の光に包まれていた。


噴水の水音が静かに響いている。


ミレーヌは落ち着かない様子で周囲を見回した。


「ここでは少し……人目がありますわ」


小さな声で言う。


「少し外まで来ていただけませんか?」


リディアは一瞬だけ考えた。


だが、すぐに頷く。


「構いません」


王宮の外門はすぐ近くだ。


ほんの少し話をするだけなら問題はない。


二人は庭を抜け、門の方へ歩いていった。


門の外には、王都の通りが広がっている。


そこには、一台の馬車が止まっていた。


落ち着いた色の、商人の馬車のように見える。


ミレーヌはその方向をちらりと見てから言った。


その視線の先には、止まったままの馬車があった。


「実は……」


言葉を探すように続ける。


「少し、相談があって」


その時だった。


風がふわりと吹く。


その瞬間――


リディアの鼻を、鋭い匂いがかすめた。


(……?)


思わず足を止める。


鼻の奥に残る、独特の匂い。


(……消毒薬?)


胸の奥が、ざわりと揺れた。


理由は分からない。


だが――


どこか懐かしい。


まるで、遠い昔に嗅いだことがあるような。


その時だった。


背後から、低い声がした。


「――動くな」


同時に、空気が震える。


魔力が走った。


淡い光の輪が、リディアの体を包む。


拘束魔法。


「……っ!」


体が動かない。


リディアは目を見開いた。


馬車の扉が開く。


中から現れたのは、粗野な男だった。


商人の服を着ているが、その目は鋭い。


「早いな」


男が低く言う。


「さすが貴族様のご依頼だ」


その言葉に、ミレーヌの顔がわずかに強張った。


「は、早くしてください」


震える声だった。


男はにやりと笑う。


「分かっている」


布を取り出す。


再び、あの匂いが広がった。


鼻を刺すような薬の香り。


その瞬間――


リディアの意識が揺れる。


(……この匂い)


白い光景が、頭の奥に走った。


白い廊下。


消毒の匂い。


走る人影。


「栄養管理を急いでください」


誰かの声。


だが――


思い出せない。


それが誰なのか。


自分がどこにいたのか。


ただ一つだけ、はっきりしている。


仕事に追われていた。


必死で、誰かを救おうとしていた。


(……私は)


その瞬間、視界が暗くなる。


男がリディアを抱え上げた。


「よし」


「連れて行くぞ」


馬車の扉が閉まる。


車輪がゆっくりと回り始めた。


王宮の外門のすぐそばで――


誰にも気づかれないまま。


一人の伯爵令嬢が、静かに連れ去られていった。

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