第二十一話 伯爵の対話
舞踏会の終わりが近づいていた。
貴族たちが少しずつ会場を後にしていく。
その喧騒から少し離れた場所で――
二人の男が向き合っていた。
アルヴェルン伯爵と、グランベルク伯爵である。
グランベルク伯爵は低く言った。
「……婚約の件だ」
「息子が愚かな真似をした」
その声には、押し殺した怒りが混じっていた。
アルヴェルン伯爵は静かに答える。
「事情は聞いております」
落ち着いた声だった。
グランベルク伯爵は苦い顔をする。
「本来ならば――」
小さく息を吐く。
「今日の舞踏会は、リディア嬢を伴って出席するはずだった」
アルヴェルン伯爵は一瞬だけ目を細めた。
だが、すぐに表情を戻した。
「そうでしたか」
短い返答だった。
沈黙が落ちる。
やがてアルヴェルン伯爵が言う。
「娘は、婚約者として誠実に務めておりました」
その声は穏やかだったが、はっきりしていた。
「その点だけは――」
「どうかお忘れなきよう」
グランベルク伯爵はゆっくりと頷く。
「分かっている」
そして低く呟いた。
「愚かな息子だ」
その時だった。
会場の中央でざわめきが起こる。
二人の視線がそちらへ向く。
ダンスの輪の中――
銀の髪の令嬢が、公爵家の嫡男と踊っていた。
グランベルク伯爵は小さく息を吐く。
「……なるほど」
低く呟く。
「息子は、本当に大きなものを失ったらしい」
その時、ふと視線が別の場所へ向いた。
そこには――
アルフレッドと並んで立つ、一人の令嬢。
華やかなドレス。
誇らしげな笑顔。
ミレーヌ・フォン・カストラ。
グランベルク伯爵の眉が、わずかに動いた。
「……あれが」
低く呟く。
「息子が選んだ相手か」
その声には、失望が滲んでいた。
アルヴェルン伯爵は何も言わない。
ただ静かに娘の姿を見ていた。




