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第二十話 静かな余韻
舞踏会の最後の曲が流れていた。
華やかな音楽も、どこか穏やかな調子に変わっている。
貴族たちは少しずつ会場を後にし始めていた。
その中で――
リディアは大広間の端に立っていた。
銀の髪が灯りを受けて、静かに輝いている。
「少し疲れましたか」
隣からカイルが声をかける。
リディアは小さく微笑んだ。
「少しだけ」
「こんなに注目されるとは思いませんでした」
カイルは苦笑する。
「皇太子殿下」
「王弟殿下」
そして、わずかに肩をすくめた。
「……私まで踊ってしまいましたからね」
リディアはくすりと笑った。
その様子を見て、カイルはほんの一瞬だけ目を細める。
その時。
遠くから、誰かの視線を感じた。
カイルは静かにそちらを見る。
侯爵家の嫡男――ルーカス。
元婚約者――アルフレッド。
そして、男爵令嬢ミレーヌ。
それぞれが、違う感情でこちらを見ていた。
カイルは小さく息をつく。
「……面倒なことになりそうですね」
その呟きに、リディアは首を傾げた。
「そうでしょうか?」
カイルは答えない。
ただ静かに微笑んだ。
だがその視線は、まだ会場の奥を見ている。
舞踏会は終わる。
だが――
今夜生まれた噂は、これから社交界へ広がっていくだろう。




