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第十九話 社交界のざわめき
舞踏会の音楽は、優雅に流れ続けていた。
だが会場の空気は、先ほどまでとは少し違っていた。
貴族たちの視線が、あちこちで同じ人物を追っている。
銀の髪の令嬢。
リディア・フォン・アルヴェルン。
人々の間で、小さな囁きが広がっていた。
「見たか?」
「皇太子殿下と踊っていた」
「王弟殿下までだ」
「しかもヴァルディーク公爵家の嫡男だぞ」
驚きと興味の混じった声が、あちこちから聞こえてくる。
「アルヴェルン伯爵家の令嬢だろう?」
「だが王女殿下の侍女らしい」
「侍女が王家と踊るなど……」
「ただの侍女ではないということだ」
噂は、静かに広がっていった。
その中心にいる当人は――
そんな視線を気にする様子もなく、静かに会場を歩いていた。
カイルと並んで。
カイルは周囲の視線を感じながら、小さく息をつく。
「完全に噂になっていますね」
リディアは困ったように微笑んだ。
「殿下方が踊ってくださったのですから」
「仕方ありません」
カイルは一瞬だけ黙る。
そして、静かに言った。
「……ええ」
その声には、わずかな警戒が混じっていた。
遠くから、二人の様子を見ている視線がある。
好奇心。
嫉妬。
そして――
狙うような視線。
舞踏会のざわめきは、ゆっくりと広がり続けていた。




