第十八話 侯爵家の嫡男
舞踏会の音楽は、ゆったりと流れ続けていた。
その喧騒から少し離れた場所で――
ルーカス・フォン・ダグラスは、グラスを片手にダンスの輪を眺めていた。
その視線の先には、銀の髪の令嬢がいる。
リディア・フォン・アルヴェルン。
先ほどまでヴァルディーク公爵家の嫡男と踊っていた少女だった。
ルーカスは小さく笑う。
「なるほど」
面白そうに呟く。
「これはまた、随分と守られている」
皇太子。
王弟。
そして、ヴァルディーク公爵家。
普通の令嬢なら近づくことさえ難しい顔ぶれだった。
だが――
ルーカスの目には、別の興味が宿っていた。
「……だが」
グラスを軽く回す。
「余計に面白い」
その時、背後から声がかかった。
「お兄様」
振り向くと、そこにはイザベラが立っていた。
侯爵家の令嬢。
ルーカスの妹である。
イザベラは不機嫌そうに言う。
「さっきのが、例の侍女です」
「王女の侍女だそうですわ」
ルーカスは肩をすくめる。
「知っている」
そして再びリディアを見る。
ダンスの輪の中。
柔らかな銀の髪が灯りを受けて輝いている。
その姿は、舞踏会の中でもひときわ目を引いていた。
ルーカスの口元がゆっくりと歪む。
「美しいな」
その声には、軽い興味以上のものが混じっていた。
「しかも――」
「面白い」
イザベラが眉をひそめる。
「何がですの?」
ルーカスは小さく笑った。
「皇太子に守られ」
「王弟に目をかけられ」
「ヴァルディーク公爵家の嫡男が傍にいる」
そして、静かに言う。
「それでも、ただの侍女」
その瞳に、獲物を見るような光が宿る。
「……手に入ったら」
「さぞ面白いだろう」




