第十四話 過去の影
音楽が静かに流れている。
カイルとリディアは、ダンスの輪の中でゆったりと踊っていた。
リディアの銀の髪が、灯りを受けて柔らかく輝く。
カイルは落ち着いた声で言った。
「今日は随分と人気ですね」
わずかに皮肉の混じった声だった。
リディアは小さく笑う。
「私ではなく、殿下方のおかげでしょう」
カイルは一瞬だけ目を細めた。
「そうでしょうか」
その時だった。
ふと、リディアの視線が止まる。
ダンスの輪の外。
人々の間に――
見覚えのある顔があった。
栗色の髪。
見慣れた姿。
アルフレッド・フォン・グランベルク。
元婚約者だった。
その隣には、一人の令嬢が寄り添うように立っている。
華やかなドレス。
誇らしげな笑顔。
ミレーヌ・フォン・カストラ。
あの日、アルフレッドと共にいた男爵令嬢だった。
リディアの胸の奥が、わずかに揺れる。
(……)
ほんの一瞬。
だが、その変化にカイルは気付いた。
「どうしました?」
低く問う。
リディアはすぐに視線を戻す。
「いえ」
小さく首を振る。
「少し、懐かしい顔を見ただけです」
カイルの視線が、静かにダンスの輪の外へ向く。
すぐに、二人の姿を見つけた。
そして、わずかに目を細める。
(……あれか)
元婚約者。
噂は聞いていた。
だが、実際に見るのは初めてだった。
その時。
ダンスの輪の外で、アルフレッドの視線がこちらへ向く。
そして――
驚いたように、目を見開いた。
銀の髪の少女。
かつて婚約していた令嬢。
そして今――
公爵家の嫡男とダンスを踊っている。
アルフレッドの顔から、笑みが消えた。




