第十三話 王家の輪
皇太子とのダンスが終わると、会場には小さなどよめきが広がった。
「今の……」
「皇太子殿下では?」
「アルヴェルン伯爵令嬢だ」
「噂の侍女か……」
囁きが広がっていく。
リディアが一礼してダンスの輪から離れた、その時だった。
「リディア嬢」
低く落ち着いた声が響く。
振り向くと、そこに立っていたのは王弟アルベルトだった。
「次は私が借りよう」
有無を言わせぬ穏やかな声。
リディアは少し驚きながらも、静かに頭を下げる。
「承知いたしました」
王弟は手を差し出す。
その手を取り、二人は再びダンスの輪へ入った。
周囲の貴族たちは、思わず視線を交わす。
「……王弟殿下まで」
「どういうことだ」
「アルヴェルン伯爵家の令嬢だ」
「だが今は王女の侍女だろう?」
「王家が揃って踊るとは……」
その頃。
少し離れた場所で、ルーカスはグラスを傾けていた。
視線は舞踏の輪に向いたまま。
「これはまた」
小さく笑う。
「随分と守られているじゃないか」
王弟とのダンスが終わる。
音楽が止まり、会場がゆっくりと次の曲へ移る。
その時だった。
「リディア嬢」
聞き慣れた声がした。
振り向くと、そこに立っていたのはカイルだった。
黒い瞳が、静かにこちらを見ている。
「もう一曲」
「よろしいですか」
その声は落ち着いていた。
だが、ほんのわずかに――
急いで来た気配があった。
リディアは小さく微笑む。
「喜んで」
そっと手を重ねる。
カイルは何も言わない。
ただ静かに手を取り、再びダンスの輪へ導いた。
その様子を見ていた貴族の一人が、思わず呟く。
「……あれでは」
「誰も近寄れないな」




