第十二話 最初のダンス
ルーカスは肩をすくめて笑った。
「それは残念だ」
だが、その視線はまだリディアへ向いている。
「では――」
軽く一歩近づき、言った。
「次のダンスは、予約させてもらえるかな?」
その言葉に、周囲の空気がわずかに揺れる。
その瞬間――
カイルが静かにリディアへ視線を向けた。
「リディア嬢」
落ち着いた声だった。
そして、ゆっくりと手を差し出す。
「踊っていただけますか」
リディアは一瞬だけ目を瞬かせた。
だがすぐに、小さく微笑む。
「喜んで」
そっと手を重ねる。
音楽が変わる。
ゆったりとしたワルツ。
カイルはリディアの手を取り、ダンスの輪の中へ入った。
リディアのドレスが、柔らかく広がる。
カイルは落ち着いた声で言った。
「舞踏会は久しぶりですか」
リディアは少しだけ笑う。
「ええ」
「しばらく遠ざかっておりましたので」
カイルはわずかに頷く。
「ですが」
一拍置き、続ける。
「よく似合っています」
その言葉に、リディアは少し驚いたように目を瞬かせた。
だがすぐに、静かに微笑んだ。
「ありがとうございます」
やがて曲が終わる。
二人がダンスの輪から離れた、その時だった。
「次は私が――」
ルーカスが近づこうとする。
だが、その前に声が響いた。
「リディア」
振り向くと、そこに立っていたのは――
皇太子レオナルトだった。
「少し借りてもいいかな」
穏やかな笑顔だったが、断る余地はない。
ルーカスがわずかに眉を上げる。
皇太子は楽しそうに笑った。
「舞踏会では、同じ相手と二曲続けて踊るのは」
「家族か婚約者くらいだからね」
そう言って、リディアへ手を差し出す。
「一曲、付き合ってくれるかい」
リディアは驚きながらも、静かに一礼した。
「喜んで」
そして二人はダンスの輪へ入っていく。
その様子を見て、ルーカスは小さく舌を鳴らした。
「なるほど」
だが、その次の曲が終わった時。
今度は別の声が聞こえた。
「リディア嬢」
そこに立っていたのは――
王弟アルベルトだった。
「次は私が借りよう」
そしてさらに、その次。
「リディア嬢」
静かな声がした。
振り向くと、カイルが立っていた。
黒い瞳が、まっすぐリディアを見ている。
「もう一曲」
「よろしいですか」




