第十一話 軽薄な花
舞踏会の音楽が、ゆったりと流れていた。
カイルとリディアが大広間へ歩み出ると、周囲の視線が静かに集まる。
リディアはその視線を感じながらも、落ち着いた表情のまま歩いていた。
その時だった。
「これはまた――」
軽い声が、すぐ近くから聞こえた。
振り向くと、一人の青年が立っていた。
ルーカス・フォン・ダグラス。
侯爵家の嫡男である。
整った顔立ちに、どこか軽薄な笑みを浮かべていた。
ルーカスは手にしていた花をくるりと回す。
そして当然のように、リディアへ差し出す。
「お嬢さん」
「あなたのような美しい方は、舞踏会でも珍しい」
その声は軽く、どこか芝居がかっている。
周囲の数人が、興味深そうにこちらを見ていた。
リディアは一瞬だけ目を瞬かせた。
だがすぐに、静かに頭を下げる。
「お気持ちはありがたいのですが」
「今夜は、ヴァルディーク様がエスコートしてくださっていますので」
ルーカスは一瞬だけ眉を上げた。
そして、ふっと笑う。
「なるほど」
「それは失礼」
そう言って花を引いた。
だが、その視線はリディアから離れない。
「それでも」
「少し話すくらいは、構わないだろう?」
その瞬間――
隣で、カイルが静かに口を開いた。
「ダグラス卿」
低い声だった。
だが、その場の空気がわずかに変わる。
カイルの視線が、まっすぐルーカスへ向けられる。
「今夜、彼女は私がエスコートしている」
「横から声をかけるのは、感心しないな」




