第十話 舞踏会の夜
王宮の大広間は、華やかな光に包まれていた。
高い天井には無数のシャンデリアが輝き、磨き上げられた床には灯りが柔らかく反射している。
優雅な音楽が流れ、貴族たちはグラスを手に語らっていた。
年に一度の王宮舞踏会。
社交界の中心となる夜である。
やがて――
入口に立つ侍従の声が、大広間に響いた。
「カイル・フォン・ヴァルディーク様」
その名に、貴族たちの視線が一斉に入口へ向く。
公爵家の嫡男。
次期宰相候補。
黒髪の青年が、静かに姿を現した。
そして侍従が続けて告げる。
「アルヴェルン伯爵令嬢」
「――並びにご入場」
その瞬間、小さなざわめきが広がった。
入口に現れたのは、銀の髪の少女だった。
淡い銀色のドレス。
繊細な刺繍。
流れるような布。
リディア・フォン・アルヴェルン。
その隣で、カイルが静かに腕を差し出す。
リディアは一瞬だけ視線を上げ、
そっとその腕を取った。
そして二人は並んで、大広間へ歩み出る。
会場のざわめきが、わずかに広がった。
「……アルヴェルン伯爵令嬢?」
「カイル様のエスコート?」
「侍女では……」
「いや、伯爵令嬢だ」
囁きが静かに広がっていく。
その様子を、少し離れた場所から見ている男がいた。
ルーカス・フォン・ダグラス。
グラスを傾けながら、口元に笑みを浮かべる。
「……なるほど」
視線は、リディアから離れない。
「これは確かに」
小さく呟いた。
「美しい」




