第八話 王弟の贈り物
数日後の午後。
アリアナ王女の部屋には、柔らかな日差しが差し込んでいた。
リディアはいつものように紅茶を用意している。
その時だった。
扉が静かに叩かれる。
侍女が小さく一礼した。
「王弟殿下がお見えです」
アリアナ王女がぱっと顔を上げる。
「叔父様?」
やがて部屋へ入ってきたのは、堂々とした男だった。
長い銀灰色の髪。
鋭い瞳。
王弟――アルベルト・エルフィリア。
王女は嬉しそうに笑う。
「どうされたのですか?」
王弟は軽く肩をすくめた。
「少し用があってな」
そう言いながら、後ろに控えていた侍従へ視線を送る。
侍従は小さな箱を差し出した。
「リディア」
王女が呼ぶ。
リディアは静かに近づき、一礼した。
王弟は箱を見て言う。
「来月の舞踏会のことは聞いている」
リディアは少し驚いたように目を瞬かせた。
「……はい」
王弟は淡々と続ける。
「王女の侍女が舞踏会に出るなら」
「王家の名に恥じぬ装いが必要だ」
短く言った。
「これはそのためのものだ」
侍従が箱を開ける。
中には、美しいドレスが収められていた。
淡い銀色の布地。
繊細な刺繍。
控えめながらも、気品のある装いだった。
リディアは驚いて言葉を失う。
「殿下……」
王弟は表情を変えない。
「王女の侍女として舞踏会に出るのだ」
「当然の配慮だ」
それだけ言った。
だが、その視線がふとリディアへ向く。
銀の髪。
柔らかな光を受けて、静かに輝いていた。
ほんの一瞬だけ――
王弟の瞳が細くなる。
(……なるほど)
小さく息を吐く。
そして何も言わず、視線を戻した。
アリアナ王女は嬉しそうに言う。
「素敵!」
クラリスも目を輝かせた。
「きっと似合うわ」
リディアは戸惑いながらも、深く頭を下げる。
「……ありがとうございます」
王弟は軽く頷いた。
「礼はいらん」
そして静かに言う。
「舞踏会を楽しむといい」
それだけ言い残し、王弟は部屋を去っていった。
しばらくして――
その話は、カイルの耳にも届くことになる。
公爵家の執務室。
報告を聞いたカイルは、珍しく言葉を失った。
「……王弟殿下が?」
侍従が頷く。
「はい」
「アルヴェルン嬢の舞踏会用のドレスを」
短い沈黙。
カイルはゆっくりと椅子にもたれた。
そして、小さく息を吐く。
(……遅かったか)
舞踏会の準備。
当然、ドレスのことも考えていた。
だが――
王弟が先だった。
カイルは額に手を当てる。
「……まったく」
小さく呟いた。
「厄介なことになったな」




