第三話 皇太子の食卓
その日の昼。
アリアナ王女の部屋には、珍しく賑やかな空気が流れていた。
「お兄様」
王女が嬉しそうに声を上げる。
部屋へ入ってきたのは、金髪の青年だった。
レオナルト・エルフィリア皇太子である。
その後ろには、黒髪の青年――
カイル・フォン・ヴァルディークの姿もあった。
「体調が良いと聞いた」
皇太子は穏やかに微笑む。
「様子を見に来た」
アリアナ王女は楽しそうに笑った。
「ちょうど良かったわ」
そして振り向く。
「リディア」
「今日はお兄様のお友達もいらしているの」
リディアは静かに一礼した。
「承知いたしました」
やがて、食卓に温かな料理が並ぶ。
澄んだ鶏のスープ。
柔らかく煮込まれた野菜。
体を温める香草の香りが、ふわりと広がる。
皇太子はスプーンを手に取る。
一口、口に運び――
そして、ふっと笑った。
「……これは美味しい」
穏やかな声だった。
「体に優しい味だ」
王女は嬉しそうに言う。
「でしょう?」
「リディアが作ってくれたの」
皇太子はリディアを見る。
「君が?」
リディアは静かに頭を下げた。
「恐れながら」
皇太子は穏やかに頷く。
「アリアナが食事を取れるようになった理由が分かった」
その横で――
カイルは黙ってスープを見ていた。
(やはり)
ただの偶然ではない。
「……なるほど」
カイルは小さく呟いた。
「確かに、興味深い」
皇太子はその言葉を聞き、くすりと笑った。
「カイルがそう言うとは珍しいな」
スプーンを置きながら続ける。
「お前は滅多に人を褒めないだろう」
カイルは表情を変えない。
「事実を述べただけです」
皇太子は肩をすくめた。
「まあいい」
そして再びスープを口に運ぶ。
「それにしても、アリアナ」
「こんな料理を毎日食べているなら、体調も良くなるはずだ」
王女は嬉しそうに頷いた。
「ええ」
「リディアは体を温める食材を選んでくれるの」
皇太子は感心したように言う。
「ほう」
「料理人ではなく、侍女がそこまで考えるとは」
リディアは静かに答えた。
「殿下のお体を思えば、当然のことです」
その言葉に、皇太子は少しだけ目を細めた。
「なるほど」
「優秀な侍女を持ったな、アリアナ」
王女は誇らしそうに笑う。
「でしょう?」
「クラリスも気に入っているのよ」
その名前に、皇太子が小さく笑った。
「ああ、なるほど」
「だから最近、やけに機嫌がいいのか」
王女はくすくす笑う。
「クラリスったらね」
「“肌の調子が良い”って喜んでいたわ」
その言葉を聞いた瞬間――
カイルの視線がわずかに動いた。




