第十話 興味深い侍女
厨房の喧騒を背に、カイルは静かに廊下へ出た。
扉が閉じると、先ほどまで漂っていた生姜と香草の香りが、わずかに遠ざかる。
「……なるほど」
小さく呟く。
ただの噂ではない。
王女の体調が改善している理由。
それは確かに、あの料理にあった。
体に負担をかけない味。
温かく、優しい香り。
そして、よく考えられた食材の配合。
(計算されている)
偶然ではない。
そこまで考えたところで、後ろから声がした。
「いかがでしたか」
振り向くと、セドリックが扉にもたれるように立っていた。
「アルヴェルン嬢の料理は」
カイルは少しだけ口元を緩めた。
「よく考えられている」
「王女殿下が召し上がれるのも理解できる」
セドリックは満足そうに笑う。
「でしょう?」
「殿下が最近食事を取られるようになったのも、
あのお嬢様の料理のおかげです」
その時、厨房の奥から低い声が聞こえた。
「副料理長」
ベルナールだった。
腕を組み、静かに言う。
「王女殿下が食事を取れるようになった」
「それだけで、料理人としては十分だ」
短い言葉だったが、それは確かな評価だった。
カイルはもう一度、厨房の扉を見る。
その向こうでは、今もリディアが鍋の前に立っているのだろう。
銀の髪の侍女。
静かな佇まい。
そして――
鍋の前に立つ姿が、妙に印象に残る。
(ただの侍女ではない)
カイルは小さく呟いた。
「……興味深い」
「実に、興味深い侍女だ」




