第五話 皇太子の興味
王城の一室。
窓から差し込む午後の光が、机の上の書類を淡く照らしていた。
レオナルト・エルフィリア皇太子は、手にしていた報告書をゆっくりと机に置く。
「……第二王女の体調が改善?」
側近から上がってきた報告は、どれも似た内容だった。
食事量が増えている。
顔色が良くなっている。
最近は庭を少し歩くこともあるらしい。
レオナルトは腕を組み、静かに考える。
「医師の報告ではなかったな」
侍従が答える。
「はい。原因は――」
少し言葉を選びながら続けた。
「新しく侍女になった令嬢の料理ではないかと」
皇太子の眉がわずかに動く。
「侍女が?」
その時だった。
「殿下」
低く落ち着いた声が部屋に響いた。
振り返ると、そこに立っていたのは黒髪の青年だった。
カイル・フォン・ヴァルディーク。
宰相家の嫡男であり、皇太子の幼なじみでもある。
レオナルトは肩をすくめる。
「ちょうどいいところに来たな、カイル」
「面白い話を聞いた」
そう言って、先ほどの報告書を軽く叩く。
「アリアナの体調が良くなっているらしい」
カイルは表情を変えないまま答える。
「それは良いことですね」
「原因は侍女の料理だそうだ」
その言葉に、カイルの目がわずかに細くなった。
「料理……ですか」
レオナルトは小さく笑う。
「王宮の料理人でもなく、侍女だ」
「なかなか興味深い」
そして椅子にもたれた。
「クラリスも騒いでいたぞ」
「“肌が綺麗になる料理を作る侍女がいる”とな」
カイルは静かに考え込む。
王宮で噂が広がる速度。
そして、その内容。
情報としては、少々出来すぎている。
「……殿下」
「一度、確かめてみてはいかがですか」
レオナルトは楽しそうに笑った。
「同じことを考えていた」
窓の外には、穏やかな王宮の庭が広がっている。
そのどこかに――
噂の侍女がいるのだろう。
皇太子は立ち上がった。
「カイル」
「付き合え」
カイルは静かに頷いた。
「承知しました」
王宮の噂は――
ついに、皇太子を動かすことになる。




