第四話 広がる評判
王宮の中で、小さな噂が静かに広がり始めていた。
それは、ほんの些細な話からだった。
「最近、殿下の体調が少し良いらしい」
そんな言葉が、侍女たちの間で囁かれるようになったのだ。
最初は誰も大きく気に留めていなかった。
だが、数日も経つと、その噂は少しずつ形を変えていく。
「第二王女殿下が、食事を召し上がっているそうよ」
「しかも、あの食の細い殿下が」
「新しく来た侍女が関係しているらしいわ」
王宮という場所は、噂の広がるのが早い。
侍女から侍従へ。
侍従から近衛騎士へ。
そして、やがては貴族たちの耳へも届いていく。
その頃――
アリアナ王女の部屋では、穏やかな昼の時間が流れていた。
食卓の上には、温かな料理が並んでいる。
澄んだ鶏のスープ。
柔らかく煮込まれた野菜。
そして、小さな器に盛られた果実の甘味。
「……今日もいい香りね」
王女は微笑みながら、スプーンを手に取る。
ゆっくりと一口。
そして、もう一口。
その様子を見て、侍女たちの表情がわずかに緩んだ。
「殿下、本日はよく召し上がられていますね」
王女は少し照れたように笑う。
「リディアのお料理が美味しいからよ」
その言葉に、部屋の中の空気がやわらかくなる。
「リディア」
王女が穏やかに呼んだ。
「こちらがクラリス・フォン・ローゼンベルク」
「私の友人よ」
リディアは静かに一礼した。
「リディア・フォン・アルヴェルンと申します」
クラリスは興味深そうにリディアを見つめる。
そして、ぱっと笑った。
「あなたが噂の侍女ね!」
王女がくすりと笑う。
「ええ、本当に」
クラリスは腕を組み、楽しそうに頷いた。
「リディア嬢」
「あなたの料理、王宮中の評判になるわよ」
その言葉は、冗談のようでいて――
不思議と、現実になりつつあった。
王宮のどこかで、誰かが言う。
「第二王女殿下の体調を良くした侍女がいるらしい」
そして、その噂はやがて――
ある人物の耳にも届くことになる。
王城の一室。
書類に目を通していた金髪の青年が、ふと顔を上げた。
レオナルト・エルフィリア皇太子である。
「……侍女?」
彼は静かに書類を閉じた。
「面白い話だな」
その青い瞳が、わずかに細められる。
「少し、確かめてみるか」




