第十五話 祝福の外側
王都の教会は、祝福の余韻に包まれていた。
式を終えた人々が、穏やかな表情で外へと出てくる。
笑い声と、花の香り。
柔らかな光が、すべてをやさしく包み込んでいた。
その賑わいから、少し離れた場所に――
一人の男が立っている。
アルフレッドだった。
招待など、されていない。
それでも、来てしまった。
分かっている。
ここに自分の居場所がないことくらい。
それでも――どうしても、見てしまいたかった。
胸の奥で、自嘲がかすかにこぼれる。
その時、教会の扉がゆっくりと開いた。
中から光が溢れ、空気がわずかに揺れる。
そして――
リディアが姿を現した。
純白のドレスは、光を受けて柔らかく輝き、歩みに合わせて静かに揺れる。
繊細な刺繍が淡くきらめき、その姿をいっそう際立たせていた。
あまりにも、遠い。
そう思った。
かつて知っていたはずの面影が、そこには確かにあるのに――
もう手の届かない場所にいる。
その隣には、カイルがいた。
自然な距離で並び、当たり前のように歩いている。
どちらかが寄り添うでもなく、ただ並んでいるだけで完成している関係。
その空気に、違和感はひとつもなかった。
祝福の声が上がる。
花びらが舞い、光の中に溶けていく。
その中で、リディアが笑った。
穏やかに。
やわらかく。
その表情を見た瞬間、胸の奥が静かに軋んだ。
あの笑顔は――
一度も、自分に向けられたことはなかったものだと。
カイルの手が、そっとリディアを支える。
ほんのわずかな仕草。
だが、それだけで十分だった。
積み重ねてきたものの差を、何よりも雄弁に示している。
アルフレッドは、その場から動けない。
声をかけることもできず、ただ見ていることしか許されていない。
やがて二人は、ゆっくりと馬車へ向かう。
振り返ることはない。
迷いもない。
その背中が、少しずつ遠ざかっていく。
「……」
何も言えなかった。
言葉にすれば、すべてが崩れてしまいそうで。
ただ、理解する。
すべてが終わったのだと。
あの場所には、もう――決して届かない。
それでも。
最後まで、目を逸らすことだけはできなかった。




