第十三話 純白の約束
数日後――
王都の仕立て店。
その奥にある一室は、ひときわ静かな空気に包まれていた。
「こちらでございます」
仕立て師が、ゆっくりと扉を開ける。
その先に――
一着のドレスがあった。
リディアは、息を呑む。
純白。
だが、ただの白ではない。
光を受けて、柔らかく輝く絹。
幾重にも重ねられた薄布が、空気を含むように広がっている。
スカートは、流れるようなライン。
歩くたびに、波のように揺れるだろう。
上半身は、繊細な刺繍で彩られていた。
蔦のように絡む模様。
小さな花が、ひとつひとつ丁寧に縫い込まれている。
それはまるで――
彼女自身の魔法を映したような意匠。
そして。
胸元から肩にかけて。
控えめに、だが確かに輝く青。
深い青の宝石が、数粒だけ散りばめられていた。
夜の色。
あの瞳の色。
白の中で、静かに際立っている。
「……綺麗」
思わず、言葉がこぼれる。
仕立て師は微笑んだ。
「お召しになりますか」
リディアは、静かに頷く。
やがて――
鏡の前。
そこに立っていたのは、
もう“侍女”ではない。
一人の、花嫁だった。
背筋は自然と伸びる。
裾が広がるたび、光が揺れる。
青の宝石が、静かにきらめいた。
(……私が)
胸の奥が、少しだけ震える。
その時だった。
「……似合っている」
低い声。
振り向かなくても分かる。
カイルだった。
リディアはゆっくりと振り返る。
カイルは、しばらく言葉を失っていた。
ただ、見ている。
まっすぐに。
逃がさないように。
やがて、静かに息を吐いた。
「想像以上だ」
その言葉は、飾りがなかった。
リディアの頬が、ほんのりと染まる。
「ありがとうございます」
小さく答える。
カイルは近づく。
一歩。
また一歩。
そして、リディアの前で止まった。
「青は」
短く言う。
「残しました」
リディアは、胸元に触れる。
冷たい宝石の感触。
だが――
どこか温かい。
「……はい」
微笑む。
カイルはその表情を見つめた。
「隣に立てますか」
問い。
だが、その意味は一つ。
リディアは、迷わなかった。
「はい」
はっきりと答える。
その瞬間。
カイルの手が、そっと差し出される。
自然に。
当たり前のように。
リディアは、その手を取った。
指が重なる。
逃げない。
もう、離さない。
白と青が並ぶ。
それは――
これから続く時間の、静かな約束だった。




