第十二話 継ぐ者の覚悟
「話は聞いている」
父が低く言う。
「王の前での申し出」
カイルは静かに頷く。
「はい」
父はじっと息子を見つめる。
しばしの沈黙。
やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……覚悟の上だな」
問いではない。
確認。
カイルは一瞬も迷わない。
「当然です」
短く、だがはっきりと答える。
父の視線は揺るがない。
「公爵家の妻となる者は、個人では済まぬ」
その言葉は重い。
家を背負うという意味。
責任のすべて。
カイルは受け止める。
「承知しております」
父はさらに続けた。
「守るだけで満足するな」
一拍。
「並び立て」
静かだが、鋭い言葉。
カイルの瞳が、わずかに細められる。
「――はい」
その声に、迷いはなかった。
その時。
それまで黙っていた母が、ふっと微笑む。
「あなたらしいわね」
柔らかな声だった。
「でも」
少しだけ、優しく視線を細める。
「あの方は、守られるだけの方ではないでしょう?」
カイルは、わずかに目を伏せる。
そして――
小さく笑った。
「ええ」
「だからこそです」
その答えに、母は満足そうに頷く。
父はその様子を見て、静かに息を吐いた。
「……よい」
短い言葉。
だが、それで十分だった。
認めた。
それが、すべて。
カイルは深く一礼する。
「ありがとうございます」
顔を上げた時。
その瞳には、もう迷いはなかった。
選んだ。
決めた。
あとは――
進むだけだ。
ヴァルディーク公爵家の後継として。
そして――
一人の男として。
その覚悟は、すでに定まっていた。




