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婚約破棄された伯爵令嬢が、王女の侍女になって王宮の食事改革を始めました  作者: 絵宮 芳緒
第十章 新たな立場

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第十話 次に立つ者

アルヴェルン伯爵邸の庭。


夕暮れの光が、静かに落ちていた。


レオンは一人、剣を振っている。


風を切る音が、一定のリズムで響く。


無駄のない動き。


だが――


その表情は、どこか固い。


一振り。


もう一振り。


やがて、ぴたりと剣を止めた。


ゆっくりと息を整える。


胸の奥に残るのは、拭いきれない感情だった。


その時。


「……熱心ね」


柔らかな声がかかる。


振り向くと、そこには母が立っていた。


その後ろには、父の姿もある。


レオンは軽く息を吐いた。


「見ていらしたのですか」


父は静かに頷く。


「ああ」


短い返答。


だが、その視線はまっすぐだった。


母はレオンのそばへ歩み寄る。


「無理をしていないかしら」


優しい声。


レオンは少しだけ視線を逸らした。


「……していません」


その答えに、母は小さく笑う。


「そういう顔ではないわね」


図星だった。


レオンは何も言えない。


しばらくの沈黙。


やがて、ぽつりと呟く。


「……あの時」


その一言で、すべてが通じた。


父の表情が、わずかに変わる。


母は、静かに目を伏せた。


思い出す。


婚約破棄のあの日。


リディアが戻ってきた時の姿。


何も言わず、ただ静かに微笑んでいた。


だが――


その奥にあったものを、


家族だけは知っていた。


「何もできなかった」


レオンは、低く言う。


「姉上を守ることも」


「止めることも」


握る手に、力が入る。


悔しさが、滲む。


父は一歩、前に出た。


「……そうだな」


否定しない。


ただ、受け止める。


レオンは顔を上げる。


その瞳には、もう迷いはなかった。


「だから」


短く言う。


「今度は違う」


母が、わずかに息を呑む。


レオンは続けた。


「伯爵家を継ぎます」


「その上で」


一拍。


「騎士団長になります」


言葉は少ない。


だが、その意思は揺るがない。


父は、しばらく何も言わなかった。


やがて――


小さく頷く。


「……よい」


それだけだった。


だが、それは認めた証。


母はそっと微笑む。


「あなたなら、大丈夫」


その言葉に、レオンはほんのわずかに目を伏せた。


そして、再び剣を握る。


ゆっくりと構える。


踏み込む。


剣が、鋭く空気を切り裂く。


先ほどよりも、確かな一振り。


もう、迷いはない。


守るだけではない。


支えるために。


そして――


その先に立つために。


「……必ず、追いつく」


小さく漏れた言葉。


だが、それは誓いだった。


夕陽が、その背を照らす。


アルヴェルン家の未来は、


静かに、しかし確実に


次の世代へと受け継がれていく。

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