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閑話 第386年度アカデミー卒業予定者秘密ドラフト会議「誰がマルガレットを独占するか」(前編)

今回も閑話です。

これはマルガレットが卒業する前のこと。ある夏の暑い日に彼女には内緒で行われたある会議の様子です。

 ここはアカデミー内にある小さな会議室。

 今日ここに、王都在住の各方面の代表が秘密裏に集い、ある議題について話し合うことになっている。


 その内容は、今年度卒業予定となったとあるアカデミー生徒について、誰に所有権があるかをはっきりさ……もとい、どこの事業者に就職の勧誘をする優先権を与えるかを話し合う会議。

 通称『秘密ドラフト会議』と言われるものである。


 蒸し暑いある夏の日の昼下がり。会議室に集まった面々は総勢六名である。


 その内訳は、王宮から人事担当の責任者、メッサーラ男爵。

 騎士団から騎士団長ランスロット。

 王都平民街から商工組合会長ホルムシュミット(『満月の黒猫亭』オーナー)と、副会長タイロン(『タイロン雑貨店』店主)。

 そしてアカデミーからはゼロス教授と、もう一人……


 ニコニコ微笑みながらアカデミー側の席に座っているカリンにゼロス教授以外の四人が訝しげな表情を向ける。


「なんでカリンがここにいるんだ?」


 皆の疑問を代表して、騎士団長ランスロットが主催側のアカデミー教授、ゼロスに問いかけた。

 するとゼロスはランスロットの問いには答えず、にこやかな笑みを浮かべたまま視線をカリンに向ける。カリンは、心外だと言わんばかりの表情をランスロットに向けている。


「何よ団長さん。私がいたらダメなわけ?」

「いや、今日はマリーの将来についての密談なんだろ? お前は関係ねえじゃねえか」

「何を言っているんですか。私はマリーさんの護衛兼親友兼かわいいアカデミーの後輩です。マリーさんは私のものなので私の許可なく卒業後どこに所属させるか決めさせるわけにはいきません」

「いや、お前こそ何を言ってるんだ?」


 ゼロスが当人に説明を丸投げした結果、早くも会議が紛糾し始めた。

 王宮から派遣されたメッサーラ男爵は意味が解らないとでも言いたげに首を振っているし、平民代表の二人は目を真ん丸に見開いて固まっている。


 フリーズから解けたタイロンが、恐る恐るカリンに問いかける。


「嬢ちゃんはよくマリーちゃんにくっついてくる子だよな? マリーちゃんが嬢ちゃんを保護しているのかと思っていたが実際は逆なのか? マリーちゃんが嬢ちゃんのものってどういう意味だ?」

「そのまんまの意味ですよ。だからマリーさんが卒業してからもずっと、マリーさんの行きたいところには私が一緒についていきます。あなたたちには渡しませんからね」


 カリンの言葉を聞いたタイロンは二の句が継げず、ぽかんと口を開け絶句している。

 

 首を振っていたメッサーラ男爵がカリンの方を向く。


「シャル……じゃなかったカリン様。あまりそのようなわがままを言うものではありません。彼女の才能はアカデミーという狭い世界に留めておいては国家の大損失です。我が王宮にて、ふんだんな資金と国内最先端の施設を存分に活用して国家のためになる研究を……」

「男爵様。私はアカデミーの一生徒、カリンです。様付けは不要に願います」

「いやしかし、あなた様は……」


 平民代表の二人を見つつ、言葉を続けようとしたメッサーラ男爵は、慌てて言葉の続きを飲み込むことになった。

 季節は真夏。茹だるような暑さの会議室は、カリンが浮かべた絶対零度の微笑によってすべての生物が凍り付くほどの冷気に覆われたからだ。

 何か地雷を踏んだらしいことを察したメッサーラ男爵は慌てて自分の手で口を塞ぐ。


「ほほほ。さすが若くして、そして男爵の地位でありながら王宮の人事担当の責任者という要職に抜擢されたメッサーラ様ですね。危機管理がわかっていらっしゃる。いいですか。私はマリーさんの護衛兼親友兼かわいいアカデミー後輩の、アカデミーの一生徒に過ぎないカリンです。よいですね?」


 カリンの目だけ笑っていない朗らかな微笑みに、口を押さえたまま高速で首をこくこく振るメッサーラ男爵。

 男爵に了承されたことでカリンの目に笑みが戻る。


「王宮の方々はマリーさんの製造する爆薬とかの技術が欲しいだけでしょう? 自らの欲望を満たすためだけに彼女を王宮のような狭いところに閉じ込めて利用するなんてとんでもないことです。マリーさんには好きなところに行って、好きなように研究を続けてほしい。私がちゃんとついていますから王宮の方々は安心して私に任せてください。いいですね?」

「は、はい……」


 目に見えない何かの力関係に屈服したメッサーラ男爵。その様子を黙って見ていたランスロットが呆れ顔でカリンに文句を言う。


「おいカリン。今日はマリーの将来について話し合うんだろう。お前が喋るとアカデミーの目論見通り、いつまでたってもマリーが卒業できん。お前は黙って座ってろ」

「何よ団長さん。あなたたちに任せてるとマリーさんがとんでもない目に遭いそうで信用できないから私はここにいるの。それにマリーさんの将来を話し合うと言うけど、そもそもマリーさんの希望は聞いたの?」

「希望を聞くも何も、何回聞いても、何年たってもマリーは『私なんて全然まだまだ卒業できませんよ』と言うし、アカデミーの奴らは『マルガレットは引き続き在学希望』としか言わねえだろうが! これはつまり組織ぐるみでマリーを独り占めしているんだろう! だから今日この会議が開催されることになったんだぞ!」


 ランスロットの啖呵に、王都平民街組が「そうだそうだ」と相槌を打つ。メッサーラ男爵もうんうんと頷いていたが、カリンにひと睨みされ、そっと目を逸らしていた。




 そもそも就職活動とは、就職をする当の本人、アカデミー卒業見込みの生徒が自らの意志によって就職希望先を選び、その職場を訪問の上、自身を売り込んで在学中に卒業後の就職の内定を貰うものである。


 原則はそうなのだが、アカデミーを運営する国家としては、せっかく多額の税金を投入して運営しているアカデミーで手塩にかけて育てた優秀な人材を、みすみす国外に流出させたくない。

 というわけで一部の有能な卒業見込みの生徒については、王宮に登録されている国内の優良な事業所に卒業見込みであるという情報を事前に密かに流し、国内の、かつ国家が認めた優良な事業所に積極的に採用してもらおうという狙いをもとに『秘密ドラフト会議』が開催されるのである。


 そして今年度、ついに皆に待ち望まれたある将来有望な生徒の卒業が見込まれている。

 その名はマルガレット。王都郊外の小さな孤児院出身の少女である。


 そもそもアカデミー側は、今年マルガレットを卒業させるつもりがなかった。

 というか、なんならこれからもずっと卒業させずアカデミーに留めておきたいと思っていたりする。


 だが、王都での彼女の人気は絶大であり、各事業所が彼女の卒業を今か今かと待っていた。


 しかしアカデミーに彼女を手放す気がさらさらないので、彼女は何年たってもアカデミーを卒業する気配がない。


 いつまで待っても一向に彼女が就活市場に出てこない……この事態にいつしか王都中の事業所が怒りの声を上げ始めた。


 王宮への陳情も後を絶たない。


『アカデミーはいつまでも国の宝を独占してはならない!』

『さんざん卒業を引き延ばし、アカデミーが独占しているのは国家の損失である。早々に卒業させ、本人に就職の意思を問うべきである!!』

『彼女はみんなのもの。アカデミーの横暴を許すな!!!』


 ……これまでアカデミーはのらりくらりと理由をつけては卒業を引き延ばしていたものの、ついに王宮からお達しが出る事態になってしまった。


『秘密ドラフト会議を開催し、彼女の将来を話し合え』




 かくして今日、渋々了承したアカデミーの重い腰が上がり、王立アカデミーにて会議が開催されることとなったのである。

さらっと読めてクスッとくるライトな読み切りの閑話を目指したというのに……

文字数がとんでもなくなったので前編後編に分けます。

というわけで次回に続きます。

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