普通の、愛
うなだれている私の頭をそっとなでる手。
ミリがそっと顔をあげると、センチがしゃがんで覗き込んでいた。
「どうした?」
不思議そうな声。
でも、その声は頼りないものではなく、力強いものだった。
言うなれば、仲間の声だ。
場所を移し、私とセンチはそのままお風呂に入った。
それは私の希望で、センチに話す前に自分で混乱した頭をまとめる必要があったから。
センチは私の希望を聞き入れ、風呂の後、館内の休憩室で胡坐をかいていた。
「…たぶん、ヘリで逃げた彼女は、私たちの機関で言う『反乱分子』なのだと思う。
私たちは国に造られて国を護るために生きている遺伝子体なのだけれど、中にはそれに反発して遺伝子体の消滅を主張するグループがいてね。
機密情報だからその数は少ないのだけれど。
私たちはそういう反乱分子から身を護って生きてきたから、直接関わったことはなかったの。
反乱分子の『意図』を考えることもなかった。
でも、今日…あの女の子が言った『解放』というのは、
キロを『普通の人間』にすることだった…」
注文したうどんを食べる手が止まるセンチ。
「…普通の人間?」
私は持っていたコップの水を見つめる。
「そう…きっとキロを愛しているから、彼女はそうするの。
私たちの命の宿命から解放して、自由を手にするために。
…私、そんなこと、考えてもいなかった…」
ミリは額を覆う。
後悔なのか恥ずかしさからなのか、顔が赤くなる。
そう。
ミリは、考えたことがなかったのだ。
親である国からの解放を、
誰か一人の為だけに生きるその信念を、
おそらく、―――人間として普通のその発想を。
「だからね、センチ…」
センチはミリのか細い声を、真剣なまなざしで受け止める。
「私は、
キロの幸せを願う姉としては…あの二人を止めたくないの。
たとえ、それが国に反する重罪だとしても」
迷っていたことだけれど、ミリはもう腹を決めていた。
そのことを、センチは分かっているらしく、
ただ頷いて微笑んでいてくれた。
たとえ、どんな道だとしても、センチはミリの味方だから。




