大切にすべきもの
「センチ、お願いがあるの!」
昼下がり、センチは「ニホンの和菓子を作った」と言って、またミリの家にあがりこんでいた。
急にかしこまって言うミリに、センチは持ってきた『ヨウカン』を片手に少し驚く。
「ここ1週間…私、あなたと一緒にいるのが心地よくて、忘れてた。
けれどキロを捜さなければ、センチの身も危ういし…。
ニホンも危なくなってしまうかもしれない。
だから、あなたの力を貸して下さい」
じっとセンチの瞳を見る。
センチはなんだそんなこと、と言って笑った。
「なんだぁ、ようやく結婚の意志が固まったのかと思ったのに。
いいよ、俺、待ってるし」
「いや、意志固める前にそこは了承してないわよ。
ちゃんと私の話、分かってくれたの?」
もちろんさ、とセンチは皿を出す。
ひんやりと黒いゼリーのようなこれが、『ヨウカン』らしい。
「俺はミリの為なら何だって頑張るぜ。
弟の1人や2人、すぐに見つけてやるよ」
不敵に笑いながらヨウカンを口に含んだので、ミリもそっと食べてみる。
とても甘くて、少し冷たい味だった。
その後、センチと一緒に自転車にまたがって町内を走った。
ただの散歩のようだが、センチはどこか思い当たるものがあるのか、時折あたりを見回しては進んでいた。
「アンテナでもあるの?」
「あるとしたら耳の奥かな、
なんかざわざわってするんだ」
センチが自転車を止めたのは、ミリが使っている銭湯の前だった。
「いくらなんでも身を隠しているはずの人が、こんなところ使わないわよ…
もっと、町外れのほうに行ってみましょう」
ミリが止めるのも構わず、センチは自転車から降りてしまう。
その瞳は出入り口の自動ドアを一直線にとらえている。
―――と、ドアからキロが出てきた。
そして、同い年くらいの女の子と一緒に。
「キロっ!」
思わず声を上げる。
すると、キロよりも早く、隣の女の子が反応した。
彼女はキロの手を引き、ポケットから携帯を取り出す。
どこかに連絡をしている?
「待ちなさい!」
私は追いかける。
キロはどこかの団体にさらわれたのかと考えながら、駐車場の車を抜けるように走る2人を追う。
が、そこへ先回りしていたセンチが前に立ちはだかる。
ようやく足が止まった。
「あなた…どこの機関なの?」
キロの手を持つ女の子は、メガネをしていた。
髪は黒く、おかっぱ。
目は細いが、瞳は強い光を持っていた。
…信念を持つ者の瞳。
「わたしは『絶対加害者』であるキロ様を、かいほうしようとしているだけです。
あなたはミリ様ですね?
…どうしてあなたは、たいせつになされないのですか」
丁寧な口調だが、まだ声は子供のそれだ。
ミリは一瞬言葉に詰まる。
彼女の言うことに、異を唱える言葉が見つからなかった。
…上から音が聞こえる。
見上げると、1機のヘリが近づいて来ていた。
「ミリ様はもうすこし、ごじしんのせなかをふりかえるべきだとおもいます」
降りてくる梯子にキロは黙って上っていく。
女の子も梯子に手をかける。
「ミリ!
いいのか、行っちまうぞ!」
ミリは動けない。
メガネの向こうの瞳に、射抜かれたよう。
体が凍りついていた。
宙に浮かび、轟音とともに飛び去っていくへり。
駆け寄ってきたセンチの言葉に答えず、ミリは崩れるように座り込む。
アスファルトに額をこすりつけ、ミリは気づいた事実に愕然となる。
――大切にすべきなのは、どちらなのか。




